詩について語らず
――編集子への手紙――
高村光太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)却《かえっ》て

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)暗中|摸索《もさく》
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 詩の講座のために詩について書いてくれというかねての依頼でしたが、今詩について一行も書けないような心的状態にあるので書かずに居たところ、編集子の一人が膝づめ談判に来られていささか閉口、なおも固辞したものの、結局その書けないといういわれを書くようにといわれてやむなく筆をとります。
 ところが、書けないといういわれを書こうとするとこれが又なかなか書けません。なぜ書けないかがはっきり分るくらいなら、当然それは書けるわけであり、本当はただいわれ知らずに書けないのだという外はないのでしょう。
 詩は書いていながら、詩そのものについて語ることが今どうしても出来ないのです。どうしてでしょう。以前には断片的ながら詩について書いたこともありましたが、詩についてだんだんいろいろの問題が心の中につみ重なり、複雑になり、却《かえっ》て何も分らなくなってしまった状態です。今頃になってますます暗中|摸
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