植ゑてみたが、これは開墾地の方がよく、イモがきれいに味よく出来た。畑地の方のはどうも肌が荒れ勝ちだ。今年は一奮発して増産する気でゐる。此所の土壌には底に粘土層があるため、大根人参の類は長く伸びず、二股になつたり、鍵の手に曲つたりする。上の方へむやみに立ち上つてくるには驚いた。南瓜西瓜も試みたが上等とはいへなかつた。胡瓜は見事に出来て、毎朝江戸前の節成胡瓜の取立てを味噌や塩でたべたり、糠みそ漬にした。土地の農家では胡瓜を大量に塩漬にして一年中の用に備へてゐる。今年亡くなつた水野葉舟君からもらつた田口菜、キサラギナ、日野菜、セリフオンも立派に出来た。
 太田村には清水野《きよみずの》といふ大原野があるが、此所に四十戸ばかりの開拓団が昨年からはいり、もうぼつぼつ家が建ちかけてゐる。私は酪農式の開拓農が出来るやうに願つて、なるべくそれをすすめてゐる。そして乳製品、ホウムスパン、草木染に望みをかけてゐる。



底本:「日本の名随筆 別巻14 園芸」作品社
   1992(平成4)年4月25日第1刷発行
   1996(平成8)年10月30日第4刷発行
底本の親本:「高村光太郎選集 第六巻」春秋社
   1970(昭和45)年3月発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2006年11月20日作成
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