高村光太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)叡智《えいち》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)微妙[#「微妙」に傍点]
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 顔は誰でもごまかせない。顔ほど正直な看板はない。顔をまる出しにして往来を歩いている事であるから、人は一切のごまかしを観念してしまうより外ない。いくら化けたつもりでも化ければ化けるほど、うまく化けたという事が見えるだけである。一切合切投げ出してしまうのが一番だ。それが一番美しい。顔ほど微妙[#「微妙」に傍点]に其人の内面を語るものはない。性情から、人格から、生活から、精神の高低から、叡智《えいち》の明暗から、何から何まで顔に書かれる。閻羅《えんら》大王の処に行くと見る眼かぐ鼻が居たり浄玻璃《じょうはり》の鏡があって、人間の魂を皆映し出すという。しかしそんな遠い処まで行かずとも、めいめいの顔がその浄玻璃の鏡である。寸分の相違もなく自分の持つあらゆるものを映し出しているのは、考えてみると当然の事であるが、又考えてみるとよくも出来ているものだと感嘆する。仙人じみた風貌をしていて内心俗っぽい者は、やはり仙
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