なのが一番厄介なのである。私は今でも時々その稽古をやってみるが、馬鹿にしていると、そんなことは出来なくなって、なかなかむずかしいものだ。地紋の稽古は本当にやらせると十種類ほど基本の形があって初め直線ばかりのものから七宝のような曲線のものになり、その次に新案と言って自分で考え出したものをやる。これをまあいいだろうというところ迄一年間位やらせるのであるが、然し恐らく誰もそれをよくやれた人はないだろうと思う。
 次に「ししあい」という彫の稽古になるが、これは彫金で謂《い》う「片切」と共通した彫り方で「ししあい」には一種の秘訣のようなものがあって、それを呑込ませる為にやるのだが、これもなかなか難しい。然しその時小刀以外に初めて丸刀《がんとう》を使い初めるので、非常に進んだという気がして嬉しい。それが済むと浮彫になる。浮彫は数知れず手本があって、大抵は狩野派の粉本からとって当てがわれる。花鳥、果実、獣などやると、次に水とか火焔《かえん》とかを稽古し、最後に人物をやる。人物は兆殿司《ちょうでんす》の羅漢の粉本をやるのであるが、他の画家の羅漢は余り彫刻にならないが兆殿司のはそのまま薄肉になるのは、恐
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