、もとより偶然にあらず。しかるに露国は野心を中央アジアに逞うせんと欲するここに年あり、いやしくも機会の乗ずべき、口実の藉(か)るべきあらば、ただちにこれを捉うるに躊躇することなく、これがためにはあらゆる手段と方法とを講じて、着々その目的に向いて邁進し、また寸壌尺地の微といえどもこれを等閑に付することなし。新疆の如きまた彼が多年垂涎する所にして、これがためには新疆の死命を制しある伊犂を併呑するのもっとも捷路たるべきは、彼がすでに看破したる所ならざらんや。往年露国が回教徒の騒乱に乗じて、イリ一帯の地方を占領し、後里瓦斉亜(リワヂヤ)条約を訂結するに際し、種々の条件を提出して、占領地の還付を快諾せざりしは、たまたま、もって露国の伊犂に対する野心の存する所をみるに足るべし。当時リワヂヤ条約の批准に反対したる左宗棠が奏議中、左の一節あり。いわく、『さきに中国、露国と相接せず、蒙古、カザク、ブルト、コーカンドをもって遮蔽間隔をなせしに、露国は種々の口実を設けて、彼等を誘惑し、ついにこれを領有し、ますます辺境を開拓して、中国と相接し、また隔絶する所なきにいたれり。道光の中葉以降、泰西各国の船舶、中国
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