わが国の利害と直接相関するものなきに似たりといえども、等しく清国の領土に属し、その喪失は、老大帝国瓦解の前提たらざるを保すべからず。千丈の堤も螻蟻(ろうぎ)の一穴よりついえ、至堅の框木も一楔木の挿入より裂くるを思わば、いずくんぞ寒心せざるをえんや。事すでにここにいたらば、清国領土の保全を大方針とし、東亜振興の牛耳を握るの帝国は果してこれを対岸の火災視しうべきや否や、識者を待たずして知るべきなり。由来新疆は勿論、西部支那一帯地方の事情を調査するは、極めて緊要の事に属す、しかれども、単にこれを特志者に一任するが如きは、断じて不可なり。よろしく国家の事業として、国庫の資財をもって、大探検隊を組織するか、もしくは政府の保護をもって、公共団体より調査隊を派遣せしめ、広くかつ詳に調査せざるべからず。泰西諸強国は、つねに国家の事業として、あるいは国庫の保護をもって、未開地の探検に従事せしめ、勢力扶植に汲々たるに、帝国ひとり拱手傍観の状あるは、真に千古の遺憾にあらずや。識者もって如何となす。
底本:「伊犂紀行 第二部 地誌の部」芙蓉書房
1973(昭和48)年2月28日発行
入力:はまなかひとし
校正:土屋隆
2008年3月21日作成
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