蓄音器の針
中井正一

−−
【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)道具[#「道具」に傍点]
−−

 何の針をとって見てもヴィクターのソフトはヴィクターのソフトだ。針は現にひとつひとつ違っているんだがやはりヴィクターのソフトだ。どのひとつひとつもが一つの「型」にしかすぎない。
「型」の出現は一応販売あるいは組織から要求されてきたことである。
 今人間もようやく政策あるいは就職の形式をもって、道具化商品化しつつある。すなわち「型」可能形の中にはめられつつある。
 これまでの哲学では人間は最後の個別的現実であって、そこから新たな可能性、独創性、発明が生まれるところの測られざる未来を生み出す杭のように考えられてきた。そこに研究の自由の意味も拠ることができたのである。大学とはそこで個別性の最後の拠処でもあったのである。
 今やそれが歴史的転落によってはかなくも崩れ去りつつあるのである。
 すでに政策と就職によって、社会より一定の「型」の性格を強制せらるる場合、もしそれに追従するとすれば、何の研究を取り来たっても、何の研究者を取り来た
次へ
全4ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中井 正一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング