政治から遊離する二つの基礎、すなわち第一の文化機構とその誤謬、第二の知識問題としての誤謬から解き放たれる事が、今や民主主義の課題にほかならない。真の民主主義とは何であるか、人類は、それを課題として、今、正に、自分自らを試みている。
 トルーマン大統領の選挙にあたって、アメリカのギャラップ調査局をはじめ、研究所、ジャーナリズム等知識調査力をつくして理論的可能を想定した。しかし現実はそれをくつがえした。知識が政治に敗れた一つの現象である。しかも、その敗退は、アメリカの大衆の組織的主体的条件を、すなわち「主体性」の要素を論理的計算の中から欠如していたことから起った謬りではなかったかを教えるものがある。
 世界の現段階の文化は、もはや知識は大きな組織で集団的共同研究の形で政治に役立つものとならなければならないことを示しつつある。米国の国会図書館の機構は、正に知識が組織機構の形で政治に奉仕する実験をしている。全アメリカの図書館の総合カタログをあつめ、蔵書七〇〇万冊、一、五〇〇万点にのぼる自筆文書・地図・楽譜その他の資料、館員一、五〇〇名の機構をもって、政治に奉仕しようとしている。それは民主主義が何であるかをたしかめようとしている巨大な実験である。この機構を貫いてアメリカ全知識機構が政治に奉仕しようとしているともいえるのである。
 省みれば、幾世紀かにわたって政治よりの遊離に嘆いた知識人達は、いつの日にか、かかる組織的政治機構ができるかと夢みたことであろう。民衆が民衆自身でつくる法律を、議会の組織の中で自分達知識人の助けによって作りあげる日をいかに夢みたであろうか。美事に整理された調査資料が個人的記憶にかわり、熱心な委員会が個人的思惟にかわり、協力精神に充ちた組織が個人的健康にかわって、巨大なる組織的知識人として、政治そのものに密着する日を私達もまた思わずにはいられないのである。



底本:「論理とその実践――組織論から図書館像へ――」てんびん社
   1972(昭和47)年11月20日第1刷発行
   1976(昭和51)年3月20日第2刷発行
初出:「改造」
   1948(昭和23)年12月号
入力:鈴木厚司
校正:宮元淳一
2005年6月5日作成
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