、冷遇される旧態は改善されていない。職階制をきめる場合なども、調査系統については、きわめて認識と理解とがたりない。行政系統は、次官、局長、部長、課長、係長というように既成のハイアラーキイ秩序ができているので、わかりやすいらしいが、調査系統となるとこれがはっきりしない。そこで、つい傍系視されてしまう。形式的には民主化が唱えられているけれども、実質はあまり改革されていないようだ。公平待遇の原則が貫徹されないで、どこに民主化があろうか。こんな環境の中では、調査マンのうちで小悧巧なものは、課長や部長のコースを通って局長以上の地位に上がりたがる。終生を捧げて研究調査に没頭しようとすれば、いつも割損な地位に甘んじなければならぬ。これでは、底光りのする立派な専門家は養成されるはずがない。青年時代の社会的熱情はうせ、研究心は鈍り、人間的にも光りのあせた存在と化してしまう者が多いのは、当人の罪よりもむしろ環境の罪であろう。
このような環境の中に成長する調査マンの心理は複雑だ。この心理をのみこんで使いこなせる指導者はきわめて稀である。TVAにおけるリリエンソールのような人物は、容易に得難いのである。はじめの純真な勉強ずきの青年たちを、みな不平家にして殺してしまう。調査マンをして単なる調査職人に終わらしめず、立派な社会人として成長するような環境ができ上ることを祈ってやまない。例えば、海外駐在のサイエンティフィック・アタッシェ制度のようなものを創立するだけでも、どれだけ明るい希望を与えることであろうか。
わが国には過去において、優秀な青年学徒をして専門家たることを断念せしめた数多くの実例がある。それは、右に述べた社会的、経済的待遇の不公平が大きな原因であるが、そのほかにも内面的な問題がある。大学以外の職場で良心的な研究を続けることは容易でない。研究の方向や結論が与えられて、注文生産的研究調査を強いられることが多い。研究調査に自主性をもつことができず、迎合的な研究やその場限りのごまかし的調査をせねばならないとしたら、男一匹一生をかけるほどの熱情がもてないのは当然である。ここに青年調査マンの最大の精神的煩悶がある。そこで、このような生活に見きりをつけて、適当なチャンスに官界や実業界や新聞社などへ転身した悧巧者は少なくない。学力を認められて大学へ迎えられた者もある。専門家として大成すべき素質
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