った。そして、彼がこの国会図書館を去ってみると、そこには全く新しい型の、未来の意味における英雄のおもかげが、ホーフツとそこにフェードアウトしながら、映画における最も印象的な推移で、姿をあらわしている。

 彼はその報告で次のようにのべている。「国会図書館の改組は、多くの男女のお互いの事務の中から行なわれたのであって、この報告もまた、この人達の事務にほかならない」と考えて、決して自分の事業とはしないのである。
 この最初に出た報告そのものの主題は、やがて、この五年間の改組の基本的主題へと展開してゆくのである。彼の五年間の仕事は、集団をテーマとした一つの作曲であり、一つの作詩でもあった。
「私の在職五カ年の間になし遂げたいろいろな改変のうち、私が最も誇りに思うのは、職員をして益々積極的に、運営の流れの中に引きずり込むように変え得たことである」といっている。すなわち、自分の命令に従えたことにあるのではなくして、大きな組織が構成され、その組織体が、一つ一つ積極的な意欲のもとに、大きな流れの中に流れ込んで行ったことを、彼は誇りとしたのである。

 一九三九年における国会図書館は、真の意味での組織‘Organization’ではなかった。むしろそれは、或る人(それは偉大なるハーバート・パトナム氏を指す)の影響をうけて動いているというべきである。すなわち、大いなる一人の影‘Shadow of a man’の中に動いていた。
 パトナム氏の偉大なる影の中の王国の中に、数々の王国が、数十年の一つ一つの伝統をもって、各々巍然としてその偉容をととのえたのであった。それは味もあれば、香りもある機構であったであろう。
 しかし、それは、戦争の中で、部署をもつことのできるところの機械的統一の精密さにおいて、欠くるところのものがあったというべきである。それは組織としての構成としては、未完成のものであった。
 この一人の人格のもとに構成されている構造から、精密機械の組織ともいうべき巨大なる機構としての図書館にうつるにあたって、その目に見えない中心になったのが、アーチボルド・マックリーシュ氏であった。彼は、すでに「影を失った人」であった。新しい詩を身をもって描いた人であった。
「ハーバート・パトナムより、アーチボルド・マックリーシュに」図書館長が移った国会図書館は、まことに世界の図書館の概念が移りゆ
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