、「補助金」の文字だけは法案の中に埋没して、時限爆弾としなければならないと考えたのである。「予算の範囲内において、補助金を行ないうるものとする」(英語では may)という文面でもって、法務省、大蔵省、閣議をすべりぬけたのであった。そのためには、文部省の新婚の事務官をカンづめにし、大蔵省へは日参したのであった。二十五年一月十五日には、全国の署名運動、二万名の請願、講演会、新聞宣伝等々、それは涙ぐましい戦いであった。しかし、私達の流線型は魚鱗の流線型の如く、ときに鱗の動きでふくらむ事を計算に入れていたのである。それは、まずC・I・Eで、次に参議院の文部委員会で、独特の「魚鱗の陣」をかまえたのである。
補助金の「may を shall へ」という、文法学的なスローガンをもって臨んだのであった。そして、参議院でついに、単に「補助金を行なう」(shall)に変じ、G・H・Qをもそれでもって通し、参議院の委員会は、ベルが鳴り出したきわどいせと際で、すべり抜けたのであった。いわば五年越しの刀折れ矢つきた形ではあったが、法案通過のときはお互いに手を握りあった。
考えて見れば、やせても枯れても、補助
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