金の文字は残っているのである。参議院の議事録では、年三億という説明に対して「そんなに少ない予算でどうする」という声さえあったのである。にもかかわらず、今年取った予算はわずか一千万円である。これには、読書週間などの出版界の動きで、新聞をもふくめて大きく輿論を高めて、補助金を三億、五億と計上するならば、それはやがて、出版界の上にミカエリ資金となり、金融界もそれを見のがしはしないのである。
購買対象の組織体として、図書館界を計算に入れる事を、出版界は忘れていると思うのである。それには国庫が半額補助し、地方財政が半額をうけもつ図書館法案の意義を、再び注意したいのである。まず図書館界の二大支柱である公共図書館と、学校図書館を統一されたる購買組織とするように、取次機構がそれを援助しなければならない。眼前の利を追うところの分裂はいたずらに、巨大な補助金機構への破壊でしかないのである。眼前の三十万円で走りまわるよりも、確実な三億の予算の獲得に眼を転ぜられたいのである。折角の私達の苦心を利用していただきたいのである。
国立国会図書館の印刷カードは、三百以上出るとき、紙代と刷賃だけをみて、一枚一円十五銭で売ることにしている。これは今、七千の公民館を図書館化するには、人件費をはぶく最も便利な機構であると信ずる。更に、公共図書館と学校図書館が統一された図書選定をすることで、もしかりに月百冊の良書を撰定したならば、千四百円たらずで良書カード(千二百冊分)が出来、その中から自分のところの蔵書のカードをぬけばよいのである。たとい事務用または辞書体目録で三枚ずつとっても四千円でたりるのである。一月の人件費にも足りない金で図書館の選書とカードができるのである。
かかる運動の統一にむかって、出版界、取次界並びに小売店が手をそろえることで、はじめて一万の公共図書館、三万の学校図書館が出来、かつ整備されて手をつなぐことができるのである。これが統一してはじめて、良書が出たら「一千冊」は確実に売れるという、私達のかねがねの悲願が実をむすんでくるのである。
その時、図書館法案のもつ底力があらわれるというべきであろう。文化法案は砂の上に指で一本の線を引くような細いものであっても、その砂の上をもし、チョロチョロ水が流れはじめたら、すなわち大衆の動きとなったら、その水は、砂を少しずつ流していって、やがてゴーゴ
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