を中心とする調査局、渉外局、八つの研究所を打って一丸とする調査網は、それは図書課として、我館のアメリカ官庁出版物の五〇パーセントを読んだのであった。図書室が焼けてしまっても、カードとリストが完備すれば、資料の使用は不自由はしないのである。
また本の方も、フィルムの出現で、マイクロ・フィルムに、新聞、雑誌、本を、一コマ一コマのフィルムに「レコーダック」で撮影することで、その保存スペースの便利、保存期間の延長について革命的な世界が展けて来たのである。またマイクロ・カードといって、普通のカードに百頁から三百頁の本が、縮めて写真にうつし込まれるのである。日本でも今、百頁ぐらいまで成功している。これが発展すれば、トランクの中に三万冊の本が入るということができることとなるのである。勿論前二者の読む機械も日進月歩している。このマイクロフィルム、マイクロ・カードは、今集団的読書機構の将来に対しては、容易ならざる展望をひらいていると思われるのである。新聞紙を日本全国のを残すということは、この方法をのぞいては考えられないのである。しかも、三十年前の新聞がカードをくればすぐ出て来るという組織に組立てるには、これは絶対に必要な事となる。
読書と本がかかる長足の進歩をしている時、出版界も決して立後れることは出来ないと思われる。日本の出版界は未だ、単一の組織体としての出版研究所なるものをもっていないが、例えばベスト・セラーズの東京から豊橋、豊橋から長崎へといった、宣伝の波動移転速度の測定といったような事はまだ試みられていないのである。
配給網は、小売に渡したら、数カ月で、一斉に取りかえす。取りかえされた頃に、ベスト・セラーズが売れだすといったことが、未だくりかえされているのである。図書館自体が今や、購買対象の組織たらんとしつつある。この網と、新聞と、販売網でクェスチョネールの計画性をもつならば、マッス・コミュニケーションとしての読書心理の研究が可能であり、この時はじめて科学的な出版企画が、成立するのである。
海図のない航行、これが出版界の現状である。このレーダー時代に、和寇戦法を用いているのが、今の出版界である。正にアナクロニズム時代逆行というべきであろう。
底本:「論理とその実践――組織論から図書館像へ――」てんびん社
1972(昭和47)年11月20日第1刷発行
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