国立国会図書館について
中井正一

 歴史変革の任務

 今年の冬の夜のことであった。
 アメリカ国会図書館使節の招宴に金森館長と共に列席した。
 参議院図書館運営委員長である羽仁氏はあいさつの席上で「自分は日本民主化のため、国立国会図書館の礎の下に身を横たえたい」とのべた。すると、使節の一人であるブラウン氏は「私は羽仁さんに申上げたい。貴方の席をちょっとあけて取って置いて頂きたい。私もその国立国会図書館のコーナー・ストーンの下に身を横たえたいと存じますから」とのべた。
 皆笑ってしまったけれども、私には胸にしみじみとしみ透るものがあった。

 戦いに打砕かれたこの廃墟の中にも、文化は成長の歩みを少しも止めてはいない。民族をへだてて、よき意志の結集によって、どんな焼跡にも若草がもえるように、その歩みを止めはしない。
 アレクサンダーが幾十万の兵士を熱砂の中に埋めている間も、文化は人から人に伝わって、東から西へ、東から西へと、その成長の歩みを止めはしなかった。アレクサンドリア図書館がエジプトにできたのは、いかなる戦いもが消し去ることなき大いなる流れの跡をしめしているのである。
 そしてそれを中心にあらわれたアレクサンドリア学派は、かの武将の名を幾世紀かの歴史が飾った、一つの輝かしい記録であるともいえよう。

 我国の国立国会図書館も、長い歴史の眼をもってするならば、新たなる憲法による偉大な歴史変革の任務を帯びて、幾世紀かの歴史が解決すべき課題を背負って、ここに生まれて来ているとも言えるのである。時を隔てて見なければ判らぬほど、大いなる変革が、しかも二、三年の間に、行なわれようとしている。したがって、多くの摩擦もあり、または耐えがたきまでの重圧がいろいろの部署に加わって来るのは当然ともいえるであろう。幾多の困難が、館の前途にも横たわっている。
 これまでの日本の法律は、内閣または各省が立案して、議員はこれを協賛するという立て前となっていた。これは行政部が立法部に立入るという不備があったのである。法案の官僚化の危険を論ぜられても無理もないのである。ここに、国会自身が立法の調査機関をもち、独自の見地の下に調査資料を集め、その根拠に基づいて法案を、組立ててゆくところの組織をもちたいということとなるのである。
 これらの事から、米国会図書館を模範として、国立国会図書館を設立する
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