国会図書館の窓から
中井正一

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【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]*『ブックス』一九四九年三月号
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 日射しの暖かい南向きの窓に、開くともなしに、美しい装釘の本をひもどく、といった、読書のよろこび、「閑」というこころもちの深い厳しさ、こんな世界から、だんだん遠ざかりつつある。
 どこへ行くのであろう。時々こんなこころもちになる。私のいる部署は実に五百人の人々が、タイプライターの機銃のような音、電話、交渉、書類の交錯の中で朝八時半から五時の夕暮まで、一分の暇もなしに働きつづけているのである。しかも、それが読書の組織の内部機構にほかならないのである。
 議会への立法サービス、大小となく議員からの質問、または調査の依頼、早いのは二、三日の中に回答をしなければならない。さらに各省その他に二十四の支部図書館があって、全体で三百八十万冊の書籍に対して相互研究の便宜の道と、各図書の綜合リードすなわちユニオン・カタローグの課題が待っているのである。一般国民に対しても、三十六万の現存図書の自由回覧のサービス、および質
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