図書館とも手をつなぎたい。このほうの蔵書カードはすでに約十万枚を繰り込んでいる。
 さらに納本制度で入ってくる本を整理カードに印刷して、全国の図書館、研究所、会社などに流すこともこの九月からはじめているが、これは一枚一円七十五銭くらいで売ることができるようになった。約十五万枚を発送している。
 国内の出版物の出版物目録は、月刊で出しているが、これを集めて今年末には年鑑を出す予定になっている。戦後はじめて完全な出版物目録ができるわけである。その中にはレコード、楽譜、地図もふくまれているが、将来は映画をも加えることを国立国会図書館法は命じている。雑誌記事索引も、自然科学、人文科学に別けて、毎月発刊し、二十六冊を既刊した。新聞の切抜きも、一枚の紙に一テーマをはりつける法で、すでに鉄のファイルに二十七箱、ずらりと並んで人々の利用に供しており、三宅坂の元参謀本部跡の分室の閲覧室の一つの偉観となっているのである。
 考えてみれば、もはやかかる図書館はただ本を読む所ではなくして、日本民族の巨大な精神的中央気象台のように、全組織をあげて全体の様子を、刻々と記録づけてゆくところの組織の中心のような役目をもってきたのである。
 大工場のような感じが時々するのである。その一技師にしか自分はすぎない、と思っている。タイプライターの音、電話の交錯、交渉、訓練等々目のまわるような忙がしさで、一日が終わってしまう。閑日月の中に明窓浄机で本を読む世界と遠く離れた世界である。一冊も本を読めない私の一日が、副館長の一日でもある。
 よく、洪水の中が一番水に欠乏するように、図書館が、一番私にとっては本の読めない所となってしまったのである。
 新年度の予算では、係のものは二週間、朝三時ごろまで寝ない日がつづいた。私も夜半まで皆の帰るのをただ一人待つ日が多かった。
 赤坂離宮の全館に人一人いない夜、ただ一人(宿直は二人いるが)待っていると、しみじみ自分の肩に荷なっているものの重さを思い、ここに自分の命を捨てるのだという思いが、切々として迫ってくるのであった。
 そして、どうしても切られた予算を盛りかえして、五百人の館員のよろこぶ顔を見なければと、音のしない闇に向かって、何か沸ぎるものを感ずるのであった。
 あらゆる無理解をもつらぬいて、目に見えない未来に向かって、国の政治もよくなり、全日本の図書館(図書館法
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