に、雪なれば雪に、土なれば土に、その各々の構成|機能《フンクチオン》に身体構成のフンクチオンが適用して、新しき型《フォーム》を構成するその構成の効果を常に感覚が測定しながら遂に極わまれる一点にまで導いてゆくその過程、そこにいわゆる「技術美」の特徴がある。そして、一つの「呼吸」の把握はいかなる愉悦にもまして甘美なる悦楽である。私はその悦楽の根拠を「内的自然の技巧」の美的反省的判断の上に求めたいと思う。その理論的根拠づけにまで溯ることは、ここではむしろ避けられるべきであろう。
7
私のこれまで解釈し来りしものは、スポーツマンが疲労を感ずるまでの筋肉操作の快感である。どんなフォームであれ清らかな空気の中で胸をふくらませる快さ、湧くがごとき血液の奔騰、「生きることを感ずる」意味で、それはすでに快いであろう。それは浄澄な外的自然の中に、整った身体機能、すなわち、内的自然の完き活動を可能ならしむる意味で、それ自体として快適である。人々は疲労を感じ始むるまで、それを持続し、疲れを感ずると共に道具をまとめて帰ってゆく。
しかし、そこにある筋肉操作上の快適はスポーツにとってはむしろ静力学的な快である。それが一度その疲労を通して立上り始むるとき、真のスポーツの筋肉操作上の快感がそのもう一つ奥の扉を開く時である。それはむしろ動力学的ともいわるべきであろう。なぜならそこで選手達は動坐標的に内なる敵、「疲労」と血みどろな闘を開始するからである。
リップスはすでに忍苦の快感を考察している。「忍苦」は「行為」に対立して、後者の能動的なるに反して、前者は受動的である。この苦痛を感ずる意味での受動的なこの忍苦は、その苦しみを耐え、持続し、抵抗し、さらに打破して耐切るときは、それは能動的なる行為自身の内面の、その中のさらに深い能動者、すなわち「行為の中の行為」としての忍苦 Erleiden にまで到りつくす。そしてこの忍苦は、弛緩、無気力、柔弱なるものの享受できないところの健全と弾力と興奮性のもつ特権であるという。
この疲労の痛苦、すなわち、神経組織の計量的報告を超えて、肉体があらゆる抵抗要素をあげて、これに対立するところの「血液をもってせられたる構成」は、人間の「生きていることを感ずる」意味で、最も深刻なるものといわるべきであろう。
それは疲労の重力の中に立上りゆく血をもってせられたる建築である。重力が加速度のシュパヌングである意味で、すなわち自らの動きが自らの抵抗を生み出す意味において、自我は、自我の内面に受動としての自我を発見する。そして、それと永遠なる闘争をなすべく運命づけられていることを人の多くの哲学は教える。人の一つの行為が、その内面に無限なる群の(否定の否定、さらに無限なる否定としての)行為を胎《はら》むこと、その限りない集合、そこに存在の原現象がその相を露わにする。一つの「行為」とその「忍苦」、そこに存在の一角の暴露がある。引きゆがめられた微笑をもってそれを親しく嘗めるスポーツの内奥の愉悦は、その秘かな喘《あえ》ぎ、喘ぎ、喘ぎの喜悦である。
一本一本のオールを流さないこと、誤魔化さないこと、それはむしろ、いわるべき言葉ではなくして筋肉によって味覚さるべきものである。疲れ切った腕がなおも一本一本引き切ってゆくその重き愉悦は、人生の深き諦視の底の澄透れる無心にも似る。
その無心性は、よき練習と行きとどいた技術の「冴え」をもたらすものである。オールあるいは水に身を委ねた心持、最も苦しいにもかかわらず、しかも楽に漕げる境、緊張し切った境に見出す弛緩ともそれはいわるべきものである。あるまま思い切り行為して、しかもあるべき則にはまってゆく心よさである。いわばそれは、「コツ」、「気合の冴え」ともいうべきものである。この境の会得は一回にして、しかも常にある種の香のごとく、湧然とゲームの始終にまつわるものであり、忘却の底に念々絶ゆることなく働きかくるところのものであり、そして働きかくることによって、その忘却の底に自ら成長し、太り、熟し、老いてゆくものとも考えられる。その成熟が、すなわち「練習」のもつ深い意味であり、訓練、寂び、甘味み、あるいは慣るることの意味でもあろう。
すなわち「忍苦」はもはやその放棄しかあり得ない極みにおいて、何物かに身を依する。その対象は、スポーツにおいてはフォームと呼ばるるところのものである。
よくコーチがどうしてもフォームを修正できない選手をして疲れ切らしめることがある。その疲労の中に、しかもオールを引いている選手に対して「そうだ、その気持を忘れないように」ということがある。未だ自らのフォームを自ら意識している中はそのフォームは真のものではない。いわば「岸が気にかかっている」。すでにいわゆる彼等の「天地晦冥」ただ水
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