深く考察することによって、ルネッサンスの主知主義と、それに次いであらわれたバロックの主情主義の二つのものの契機をそこに見いださしめるがようである。宗教の暗黒の中より、自我を発見せしめしものは自然であり、科学であった。理性がそれの導火線となった。ブルーノーよりデカルトをさらにカントを見透す線はそれである。
しかし発見されたものは、自我[#「自我」に傍点]である。新たに発見されたる発見的存在である。明暗を爆烈せしめ、激しきものの根源となり、新しき闇、神秘の基礎となる存在の内面である。ベーメよりフィヒテを貫く線がそれである。
これらのものは、すでにフランス革命の勃発以前に発生したる契機であると同時に、すでに個人主義文化の二つの大いなる契機でもあった。いわゆるブルジョワジーとは一つのアンチノミーである。具体的歴史的過程において事実存在するがゆえに、そのアンチノミーは弁証法的とよばれもする。ブルジョワジーとは、個人の発見と個人の自己分裂[#「個人の発見と個人の自己分裂」に傍点]の二つのものを意味する。
個人の発見[#「個人の発見」に傍点]は科学[#「科学」に傍点]が導きだしたものであり、カントがその成立を立証せんとしたものである。
個人の自己分裂[#「個人の自己分裂」に傍点]は、すでに自我の概念の成立[#「成立」に傍点]とともに始まっている。フィヒテがその槓杆となったところのものである。個人の成立はその誕生の日にすでに否定の槌の下においてなされている。それはイロニーであり、それは動座標的な一つの動きのほかの何ものでもない。
かかる滑べれる地盤の上に成立する思想的建築物は、一歩その目標をあやまれば裂傷を受ける。今のいずれの思想がその傷めるものを嗣がないといえよう。
存在論的考察の内面には、その鋭き視点の貫きにもかかわらず、いいしれぬ戦後的思想がその背後を覆うている。塹壕の臭いがする。
瞬間への信仰的な愛着。執拗な個人性への付着。はかない偶然性への戯れの驚き。かかるものがすることのなくなった個人主義文化の美しい幻である。
かかる瞬間性[#「瞬間性」に傍点]と個人性[#「個人性」に傍点]と偶然性[#「偶然性」に傍点]は、その最もよき組みあわせを恋愛の姿においてもっている。愛のたわむれ、心中のもつ気紛れ、そこにブルジョワジーの美しい夢と華がある。リズムもそのコンビネーションの一つの姿としてあらわれる。存在論的リズムの解釈はその様式と共にかかる一点に凝集する。その美しさはその様式の美しさであり、その醜さはその様式の醜さである。リズムならびに韻律はかかる文化形態においては、かかる様式のもとに構造をもつ。そこでは自然と肉体現象の反復を邂逅のもつ美しさ[#「邂逅のもつ美しさ」に傍点]として理解する。宇宙的さまよいの、永遠の虚無の中に、二つのものが同一であることのもつ欣び、その偶然[#「偶然」に傍点]のもつ輝かしさ、瞬間[#「瞬間」に傍点]のもつおごそかさ、他のものでなくそれが自分[#「自分」に傍点]であることの尊さ、そこに韻律とリズムのもつ美しさがあるのである。自分で自分を求めてさまようそのさまよいの中にようやくみずからにめぐりあうことのできた悦び。そこに、時の再びの邂逅としてのリズムの本質を見いだそうとする。かくて永劫回帰こそ、真のいっとう大きな韻律となる。かかる存在への戯れをこそ、仮象存在《パラエクジステンツ》としてのリズムの現象として私たちはもつといえよう。念々に発見されゆく発見的存在としてリズムはその意味をもつのである。
しかし、かかるすべてのものはすでに個人主義文化における、否定されたる自我、孤独なる自分、距てられたる個人の上に成立するところの様式である。
今、しかし、すでに、その分裂の上に、さらにより大きな分裂が、その重圧を加えつつある。
5
今、一つの考えかたが残っている。
それは、歴史的考察である。
歴史が歴史の上に載っているごとく、時間が時間の上に載っているごとく、リズムもまたリズムの上に載っているのではないかという考えかたである。
あらゆる時代に時代の様式があるように、あらゆる歴史論が歴史それみずからの中に転ずるように、リズムもまた、時代の様式の中にその構造を変容《メタモルフォーゼ》しつつ発展するのではないかという問いは、実に数学的解釈ならびに存在論的解釈とは全然異なった構造をもつ。存在論で集団的現象が man の構造をもつことによって、問題が常に個人主義的形態をもってくる。レーヴィットによって、他の意味においてルカッチによって、ある程度までその方向への展望がひらけつつあるにはしても、本質的に解釈の視点が個人性をのがれることができない。そこで歴史的集団の問題がその方向より遮断されているのではないかと
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