ユネスコと科學
仁科芳雄

 科學は呪うべきものであるという人がある.その理由は次のとおりである.
 原始人の鬪爭と現代人の戰爭とを比較して見ると,その殺戮の量において比較にならぬ大きな差異がある.個人どうしの掴み合いと,航空機の爆撃とを比べて見るがよい.さらに進んでは人口何十萬という都市を,一瞬にして壞滅させる原子爆彈に至っては言語道斷である.このような殘虐な行爲はどうして可能になつたであろうか.それは一に自然科學の發達した結果に他ならない.であるから,科學の進歩は人類の退歩を意味するものであつて,まさに呪うべきものであるという.
 しかし一方われわれの生活は原始人に比べて,少くとも物質的には問題なく豐かになり,昔の人の夢と考えておつた欲求が現實にかなえられるようになつた.例えばアメリカの科學的成果が翌日は東京でわかるようになり,東京から廣島まで30分足らずで飛んで行く飛行機ができ,又ペニシリンのような藥が見つかつて,人の平均壽命は延びたであろう.そしてこれ等物質文明の進歩は,當然精神文明にもよい影響を與えないでは措かないのである.これ等はすべて科學の進歩のおかげであつて見れば,科學
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