た粉雪のなかに坐っていた。そればかりではない。手に雪を掴むと、これでもかと云わぬばかりに、それを自分の胸に擦りつけるのだった。
 それから彼女は部屋に帰って寐た。一時間ばかりたつと、喉のあたりがむずむずして来た。蟻がそのへんをぞろぞろ這っているような気持である。また、別な蟻の群が自分の手足のうえを這い※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]っているような気もした。しかし彼女はぐッすり睡《ねむ》った。
 翌日になると、咳がしきりに出た。彼女は、もう床から起きることが出来なかった。肺炎になってしまったのである。彼女は譫言《うわごと》を云った。その譫言のなかでも、彼女はやッぱり煖房を欲しがった。医者はどうしても煖房を据えつける必要があると云った。良人のアンリイは承知したものの、厭な顔をしていた。
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 病気ははかばかしく快方に向わなかった。深く侵された両の肺は、どうやら彼女の生命を脅かすようになって来た。
「このままここにこうしておいでになっちゃア、奥さんは寒《かん》までは持ちますまい」
 
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