たし――あたしねえ――何だか悲しいんですの――何だか、妙に気が重いんですの――」
 しかし、そう云ってしまうと彼女は何だか怖ろしい気がしたので、周章《あわ》ててこう附け加えた。
「それに――あたし、すこし寒いんですの」
 寒いと聞くと、良人はぐッと来た。
「ああ、そうだったのか、――お前にゃ、いつまでたっても煖房のことが忘れられないんだね。だが、よく考えてみるがいい。お前はここへ来てから、いいかい、ただの一度だって風邪をひいたことが無いじゃないか」
        *     *
     *           *
        *     * 
 夜になった。彼女は自分の寐間《ねま》へあがって行った。彼女のたのみ[#「たのみ」に傍点]で、夫婦の寐間は別々になっていたのである。彼女は床に就いた。寐床のなかに這入っていても、やッぱり寒くて寒くて堪らなかった。彼女は考えるのだった。
「あああ、いつまで経ってもこうなのか。いつまで経っても、死んでしまうまでこうなのか」
 そして彼女は自分の良人のことを考えた。良人《あのひと》にはどうしてあんなことが云えるのだろう。なんぼなんでもあんまり酷
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