、稍々東洋賢人の面目あり。侯は一年中の多くの時間を大磯の閑居に費やし、公務の外帝都に出づること極めて少なく、俗客と酬接するよりも、寧ろ読書に親しむの性癖あるを以て、必らずしも社交の中心たるを求めざるが如し。大隈伯は決して一日も此般の生活状態を忍ぶ能はざるなり。伯は早稲田に広大なる庭園を有し、園中には無数の珍奇なる花卉を蓄へり。特に其温室は伯の最も誇りとする所にして、室内は四季常に爛漫たる美花を以て飾れり。伯は園芸道楽を最も高尚なるものとし、屡々人に向て、花を愛するものは善人なりとの格言を繰り返へして自ら喜ぶと雖も、伯の花を愛するは、詩人の美神に※[#「りっしんべん+淌のつくり」、第3水準1−84−54]※[#「りっしんべん+兄」、第3水準1−84−45]するが如くならず、又た聖者の自然を楽むが如くならずして、唯だ其の社交に色彩を添ゆるが為に之れを愛するのみ。若し早稲田の庭園にして一たび社交と隔離せば伯の園芸に対する趣味は、恐らくは彼れが如く濃厚ならざる可し。何となれば伯の園芸道楽は頗る共同的なればなり。故に早稲田の庭園は公開せり。且つ人は、未来の短かきを感ずれば感ずるほど、漸く静止の生
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