注目を惹ける日本代表者の一人たるは疑ふ可からず。事実に於ても、伊藤侯が現内閣の後見職たる威信を有し、随つて重大なる問題に対して常に勢力ある発言権を行ひつゝあるがゆゑに、総理大臣桂伯よりも、外務大臣小村男よりも、侯爵伊藤博文といへる名は、今尚ほ日本を談ずる外人の口頭より之れを逸せざるを見る。
 然れども余は茲に大隈伯を紹介するの亦必らずしも無意義ならざるを思ふ。何となれば桂伯を政府の代表者とせば、若し又た伊藤侯を帝国の代表者とせば、大隈伯は人民の代表者といふべき模範的人物なればなり。伯は憲政本党の首領なり、現内閣に対しては当面の政敵たると共に、民間に於ても固より多数の反対党に依て囲繞せらる。而も其統率せる政党は、未だ議会の過半数をも占むる能はざるを以て、此の点よりいへば、伯を称して人民の代表者と為すべからざるに似たり。唯だ伯の最近生涯に於て現はれたる行動は、次第に政党首領たるの範囲を脱して、寧ろ人民の代表者たる位地に接近せむとするの傾向あるを知るざる可からず。
 顧ふに政党の信用未だ高からざる日本の如き国に在ては、政党の首領たるものゝ社会的境遇は、頗る窮屈にして自由ならざるものなり。彼れ
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