信ずるものは、総て之れを敵として奮闘する。これが翁の終生の運動である。翁は此の運動の為に、あらゆる悲惨をも甞め、あらゆる困難にも逢遇した。然し翁は悉く之れに打ち克つだけの勇気と忍耐とを有して居る。
※[#丸中黒、1−3−26]金も欲しくない、命も要らない、名誉を望まないで、唯だ善と思ふ目的に向つて、側目もふらずに突進することは、常識本位の人には出来ぬ芸だ。世間は此の類の熱血漢を一種の精神病者と認むるのである。但し義人とか献身者とかいふ奴は大抵精神病者と見えるもので、其の言動は往々軌道を外づれて居るものだ。
※[#丸中黒、1−3−26]田中翁も即ち其れで、現代からは狂人と見做さるゝかも知れない。実に翁は現代の厄介者である。富の勢力にも屈しない、政府の権威にも畏れない、又世間の毀誉褒貶にも頓着しない。なか/\始末にいけない代物である。加ふるに根気よく奮闘を継続して毫も休止しない所は、何となく其の個人性に薄気味の悪るい点があるやうに思はれる。
※[#丸中黒、1−3−26]翁は迷信の為に運動するでもない、又主義の為に運動するでもない、唯だ直覚に依て運動するのである。翁は猛烈なる可燃質の人
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