を受けざりき。公を知ると知らざるとを問はず、皆公の入閣を希望せざるものなく、余も亦実に公の自ら起たむことを勧告したる一人なりき。公其の心事を余に語りて曰く、松隈内閣は一種の聯合内閣なり、之れを従来の内閣に比すれば、稍々進歩したる体貌を有するに似たりと雖も、其の実質は薄弱にして統一を欠き、情弊尚ほ依然として内部に纏綿せり。其の前途知るべきのみ。我れ不似と雖も、身華冑の首班に列し、任重く途遠し。又何ぞ躁進して功名を徼倖し、以て自ら求めて名節を汚がすの位地に立つの愚に出でむや。且つ我れ、陛下の命を受けて学習院の院長たり。真に華族をして皇室の藩屏たらしめむとせば、先づ華族の子弟を教育するより急なるはなし。我れ既に此目的を抱て、専ら措画経営する所少なからず、之れを完成するは談豈容易ならむや。文部大臣たるの適材は世間自ら其の人あらむ、学習院の措画経営は、断じて之れを他人に委する能はずと。蓋し公は是より前、学習院長に任ぜられ、全力を挙げて華族の子弟教育に従事しつゝありしを以てなり。余は公の著眼の高明なると、心事の純潔なるに服し、益々公の人格に敬意を表せざるを得ざりき。
松隈内閣は果して公の予想に違
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