世間には、君が伊藤侯を見損つて政友会に飛び込むだのが誤りであつたと評するものもあるが、強ち見損なつた訳ではなからう。唯だ自己の理想を余り大事にし過ぎた為に、当時の境遇に堪え得なかつたのである。
▲しかし茲が尾崎君の人気のある所以で、失敗しても世間の同情が君を離れないのであらう。チヤムバーレーンのやうな人物は、成功すれば世間から同情を受けるが、失敗でもしたら最後、名誉も信用も忽ち去つて仕舞うのが必然だ。其処になると、理想家は一得一失で、失敗しても左ほど世間から憎まれない。尾崎君は即ち其の一例で、君は自ら言つて居るやうに、屡々暗黒の隧道に行き当ることがあるが、暫らくして再び光明の出口に送り出さるゝのである。
▲政友会を脱したのは、丁度隧道に向つた処であつて、君自身も此先どうなることかと気が気でなかつたに相違ない。其処へ都合よく東京市長が欠けて居つて、後任問題の持ち上がつた際であつたから、人気は恐ろしい勢で君に集つた。これだけは君の夢にも思はなかつたのであらうが、君に取つて所謂る渡りに舟で、人気といへる不思議の魔力に引かれたのである。
▲凡そ聡明な人物は、自分で自分の運命を開拓するもの
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