、所謂る策略といふやうなことは出来ぬかも知れない。併し策士の思ひも寄らぬ非常の決断は、河野の如き真面目の人物に見出ださるゝことが多い。
 △常識から見れば、河野の奉答文私製は、到底正当の処為と認め難い。英国の議会では、勅語奉答は直に内閣の不信任案となることがあつて、其の討議の為に二日も三日も朝野の論戦を続ける慣例であるが、我国の議会では、勅語奉答は唯だ至尊に敬意を表する儀式的奏文とする慣例で、政治上の意味を含ませないことになつて居る。此の慣例は永久変更が相成らぬという訳でもないから、変更する必要と機会があらば、之れを変更しても一向差支がない。併しソレをするには適当の方法手続に依らざるべからずだ、然るに河野は適当の方法手続に依らずして、独断を以て従来の慣例を破つた。
 △凡そ閣臣の失政を弾劾するのは、憲法より与へられたる議院の権能であるけれども、討論を用いずに之れを決することは出来ない。又た之れを討論に附するには、議院法の規定に依て議員より発議せしむるを要するのである。
 △河野の朗読したる勅語奉答文は、形式上討論に附した姿になつて居るが、実際は討論を用いずに可決したのである。否討論が出
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