意を表する場合か否らずむば一家の賀儀を機会として少数の親近者を招待する場合に行はるゝのみ。彼は政治家として国民の輿論に拘束せらるゝを避くるとともに、其の私生涯に於ても亦公衆の心理に煩はさるゝを免かれむと欲するものゝ如く、則ち其の庭内境静かにして風塵到らざる処に安置したる彼れの銅像は、無言の間に善く活ける主人公の理想を語る者に非ずして何ぞや。されば彼の私生涯は、豪華の以て世に誇るべき者なく、盛装の以て人を驚かすべきものなく、彼れの位地よりいへば、寧ろ極めて単純簡朴なりと評すべし。此の私生涯に含蓄せられたる趣味も、亦従つて公衆的ならずして個人的なり、一般的ならずして家族的なり。私生涯の彼は書院の人にして、彼は僅に漢詩を作り、和歌を詠ずるの閑趣味を解するのみ。囲碁を弄し謡曲を奏するの娯楽あるのみ。有体にいへば山県公爵は決して公衆の好愛する政治家に非ず。然れども世には一般公衆に好愛せられずして、却つて鞏固なる勢力を有する政治家あり。彼は一般公衆に対しては、一の快感を与ふべき態度を示さず。彼は自己の能事を尽くして、必らずしも其の公衆に知られむことを願はず。彼は浮泛なる群情に殉ずるを為さゞる代りに
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