はず、一日も社交と隔離する能はず、一日も沈欝なる天地に俯仰する能はず。彼は山を楽むの仁者たるよりは水を楽むの智者たるを喜べり。彼は安心立命を求むるの達人たるよりは、一生奮闘を継続するの戦士たるを選べり。
 伊藤公爵を以て彼れに比すれば、其の人格に大なる相違ありと雖も、其の名誉心の頗る旺盛にして、常に身を公衆の眼前に置き、自己の存在の社会に意識せられむことを求むるの点に於ては則ち一なり。彼は大隈伯爵の如く放胆無双ならず、又大隈伯爵の如く非常に多方面ならず。彼れの世界は殆ど政治に限られたり。然れども彼は此の限られたる世界を成るべく華やかにして、働らき甲斐あらむことを期するが故に、自己の存在の社会に忘れらるゝは、最も彼れの恐るゝ所なり。彼は又大隈伯の如く単に社会の潮流に乗ずる巧妙なる舟子たるを以て甘むぜずして、潮流其物を指導せむとするの慨ありと雖も、要するに風潮以外に立つて独自一己の理想を保守する人にあらず。若し伊藤公爵と大隈伯爵とを対照せば、伊藤公爵は欧洲大陸の政治家たる面影あり、大隈伯爵は英国政治家の風ありと謂ふべくして孰れも欧洲式の政治家たり。転じて山県公爵を観れば、其生涯は夐然別種な
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