するものは、恐らくは何人も伊藤侯の挙動を否定するを得可からじ。
 特に怪む、閣下は憲政党内閣の後を受けて自ら現内閣を組織するに及で、忽ち其前日の主張を抛棄し少なくとも其の持説を変更して一二の政党と提携したるのみならず、嚮に閣下の属僚等が不忠不臣の賊子とまで痛罵したる伊藤侯に対して、今日唯だ其の款心を失はむことを是れ恐れ、大小の事総て侯の意見に聴きて僅に弁ずるを得るが如きの状あるは何ぞや、我輩を以て閣下を観れば閣下は元来気むづかしき神経質の人物なれども、実は決して強固なる意思を有する武断家に非ず、其の権勢を喜び名爵を好むの天性或は人に過ぐるものあらむ、而も閣下は政治家として別に卓然自ら立つ所の見地なく、有体にいへば唯だ台閣の気象に富める一種の貴人たるに過ぎず、是れ政府を世界とせる属僚の盟主たるには最も適当なる人格にして、随つて動もすれば彼輩の為めに利用せられて大事を誤る所以なり。
 案ずるに憲政党内閣の破壊は、たとひ閣下の為には幸運の発展たりし変局なりといふを得可きも、其変局の決して伊藤侯の本意にも非ず、又自由党多数の冀望にも非ざりしは無論なるを以て、閣下は宜しく閣下の前途に政治上必然の
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