治家たらむことを望むは、豈閣下の有終の美を成す所以ならむや。
 相公閣下、人生の楽事は自己の天職に忠実なるに在り、閣下曾て日本のモルトケを以て自ら任じたりといふ、而もモルトケは軍人より起りて、軍人に終り、曾て其意を政治上の功名に動かされざりき、是軍事を以て自己の天職なりと信じたればなり、固より我輩は閣下が日本モルトケの自任ありといふを聞て、窃に其の抱負の盛大なるに敬服し、以て伊藤侯が日本ビスマークを自任する意気と併称して近代の双美たるを疑はずと雖も、但だ我輩は閣下が日本モルトケの自任ありて、而もモルトケの如く政治上の功名に淡泊ならざるを甚だ惜むのみ。
 或は閣下が自治制度の創意者たりしを以て、閣下に亦た政治的能力ありといふ者あらむ、是れ必らず佞者の妖言にして、閣下は断じて之れに耳を借す可からず、案ずるに自治制度の実施は実に閣下の大功なり、我輩豈に其の大功を滅せむとするものならむや、さりながら政治は別才にして閣下の長所に非らざるは、閣下自から之れを知れり、自から其の長所に非らざるを知りて久さしく之れに干渉するは、恐らくは智見ある閣下の本意なりとも認む可からじ、見よ自治制度は、現に閣下の統
前へ 次へ
全350ページ中177ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鳥谷部 春汀 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング