国民主義と薩摩征伐の策を以てしたれども、謹慎なる木戸は持重して敢て妄りに動かざりき。独り今の井上侯は大久保攻撃の勇将として聞え、頗る伯と意気投合したりし如しと雖も、其の勢力孤弱にして固より大久保党と対抗するに足らざりき。
 其の大阪府判事、神奈川県知事、租税権頭、及び元老院幹事等の諸官を歴任して、前半期の終結たる明治十一年の隠謀事件に至るまで、伯の胸中に画きしものは唯だ藩閥政府を顛覆せむとするの戯曲のみ。而して其の最後の幕は、伯の戯曲中最も奇矯にして最も露骨なるものなりき。斯くて伯が七年間の囹圄に於て領悟したる真諦は、恰も大隈伯と正反対の方向を取ることなりき。伯の獄を出づるや、其の曾て敵視したる藩閥者流の助力を得て欧洲に遊び、其の帰るや直に外務省に入りて弁理公使となり、尋いで米国公使となり、転じて山県内閣の農商務大臣となり、伊藤内閣の外務大臣となり、子爵となり、伯爵となり、勲一等となりき。此の間に於ける伯の政府改造策は、先づ藩閥と政党とを結合するを第一着手としたりき。故に伊藤内閣の策士たる伯は、同時に自由党の謀主たりき。伯が其の後半期に於て、伊藤公の信頼を藉つて自己の理想を実現せむとし
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