望を利用して、自己の長所を縦横に揮灑し、以て徐ろに政治改革の雄心を逞うせむとしたりき。然れども大久保の死すると共に、政府は忽ち茲に適当なる統率者を失ひ、単に藩閥の利害を一致せしめて、漸次勃興し来れる国民的運動を頑強に抑遏せむとしたりき。是に於てか、伯が内より政治を改革せむとするの計画は失敗に帰し、時代は伯を促がして国民と握手せしめ、以て伯の公生涯に分界線を劃したりき。伯が明治十五年を以て政党を組織したるは、蓋し新らしき政治的日本を建設せむが為に新らしき手段を必要なりと自覚したる結果のみ。爾来伯は稀れに政府に出入し、一たびは自ら首相となりて内閣を組織したることあれども、常に政党を基礎としたる立憲政府の完成を期せざるなく、殆ど一身の得失を忘れて藩閥と奮闘したりき。
 顧みて陸奥伯の行径を見れば、伯の前半期は、藩閥に対する謀叛を以て一貫したりき。勿論伯は著名なる維新の功臣にも非ざれば、明治の初期に於ける伯の資望は、未だ甚だ言ふに足るものなかりき。加ふるに伯の人格は藩閥の大勢力たる大久保利通の理想に適合せざりしを以て互ひに相反撥し、終に伯を駆つて不平党の一人たらしめたりき。伯は木戸孝允に説くに
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