の議会以来彼は大抵政府の反対に立てり※[#白ゴマ、1−3−29]政府に反対するに非ずして藩閥に反対せるなり※[#白ゴマ、1−3−29]而も其進退動もすれば衆議院の非藩閥派と同うするものあるを以て、政府者の彼れを憎むや最も太甚し※[#白ゴマ、1−3−29]然れども彼れの藩閥を攻撃するは、衆議院の非藩閥派と其精神を異にせり※[#白ゴマ、1−3−29]蓋し衆議院の非藩閥派は、政権争奪を以て結局の目的と為すと雖も、彼は単に藩閥の情弊を打破して憲政の実を挙ぐるを中心の冀望と為したればなり。
故に彼は一方に於ては藩閥を攻撃すると共に、一方に於ては又屡々衆議院の行為を非難したりき※[#白ゴマ、1−3−29]前伊藤内閣の第四議会と衝突するや、紛争に始まりて紛争に終り、九旬の会期唯だ怒罵忿恚の声を以て喧擾したるに過ぎざりき※[#白ゴマ、1−3−29]是れ他なし、内閣は常に軽佻驕傲にして責任を顧みず、常に袞竜の袖下に隠れて衆議院を威嚇せむとするあり、衆議院は噪暴急激にして沈重なる思慮を欠き、動もすれば上奏権を仮て内閣に逼らむとするあり、其行動両つながら極端に失して一点和協の意なければなり※[#白ゴマ、1−3−29]其結果として衆議院は内閣の処決を促がすと称して自ら停会し、内閣は之れに酬ひんと欲して恐れ多くも詔勅の降下を奏請し奉る如き、殆ど共に大義名分の何物たるを知らざるものに似たりき※[#白ゴマ、1−3−29]彼れは此事態を歎じて慨世私言を述べ、以て其機関雑誌に掲出せしめたり※[#白ゴマ、1−3−29]固より寥々たる短章に過ぎずと雖も、中に彼れが満腹忠忱の情躍々として掬す可きものあり※[#白ゴマ、1−3−29]其内閣に対しては、藩閥の情弊に拘泥して改善の実蹟なきを責め、挙措の不親切にして真面目ならざるを責め、誠意誠心の毫も認む可きものなきを責め、其衆議院に対しては、妄りに政府弾劾を事として紛然囂然たるを咎め、上奏権を濫用して、陛下を政海の渦中に誘ひ奉るの不敬を咎め、政府乗取の野心に駆られて国家民人の康福を度外視するを咎めたり※[#白ゴマ、1−3−29]忠忱の人に非ずして何ぞや。
第五議会の解散するや、彼れは其同志と共に伊藤首相に忠告書を贈りて、首相の反省を求めたり※[#白ゴマ、1−3−29]首相之れが復書を作りて相酬ゆるや、彼は更に弁妄書を公にして其謬見を指摘すること太だ痛切※[#白ゴマ、1−3−29]而して彼れを知らざるものは、此一事を以て単に伊藤攻撃の策より出でたりといふものあり※[#白ゴマ、1−3−29]是れ実に彼れの心事を誤解したるの太甚しきものなり。彼は伊藤侯の政略こそ初めより非難もしたれ、一個人としての伊藤侯に対しては、常に敬愛の心を以て之れを待つは、彼れの自ら明言する所なり※[#白ゴマ、1−3−29]彼れ弁妄書に於て其心事を吐露して曰く、篤麿が私交上に於て伊藤伯※[#始め二重括弧、1−2−54]当時は伯爵たり※[#終わり二重括弧、1−2−55]に対するの情実に師父に対するの情に異らざるもの在て存す、篤麿一個の冀望に於ては、伊藤伯の統督する内閣をして過誤なき内閣たらしめ、伊藤博文伯をして維新の元勲立憲国大首相たるの挙措あらしめむと欲するに外ならず※[#白ゴマ、1−3−29]然れども今や篤麿は、私情を去て公議に依り、旧来の情誼を棄てゝ断然伊藤内閣反対の側に立ち、公然其非を鳴らさざるを得ざるに至れりと※[#白ゴマ、1−3−29]何等正大の辞ぞ※[#白ゴマ、1−3−29]彼れ豈他の伊藤派と其心事を同うするものならむや※[#白ゴマ、1−3−29]
自任に高き人
松方内閣組織せらるゝに及び、人あり彼れを誘ふに文部大臣の椅子を以てす※[#白ゴマ、1−3−29]彼れ冷然之れを拒絶して敢て応ぜず※[#白ゴマ、1−3−29]客あり彼れに逢ふて其理由を問ふ※[#白ゴマ、1−3−29]彼れ曰く、余は学習院長として今方に其改革に従事しつゝあり※[#白ゴマ、1−3−29]華族教育は余に於て最大の職任にして、且つ最重の義務なり※[#白ゴマ、1−3−29]何ぞ此れを棄てゝ一伴食大臣の地位を望まむやと※[#白ゴマ、1−3−29]蓋し彼れは何時なりとも内閣大臣たるを得るの自信を有する者なり※[#白ゴマ、1−3−29]故に彼れは他の一般野心家の如く、必らずしも焦燥煩悶して大臣たらむとするものに非ず※[#白ゴマ、1−3−29]必らずしも大臣の地位を最上の名誉と為すものに非ず※[#白ゴマ、1−3−29]然れども彼れは、華族が皇室の藩屏たるを念ひ、自ら華族の矜式たらむと任ずるや太だ高し※[#白ゴマ、1−3−29]其気格の雄大なる其品性の清高なる、固より華族の代表者として内外の信用を博するに足るは言ふを俟たざるのみならず※[#白ゴマ、1−3−29]彼れは日本
前へ
次へ
全88ページ中73ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鳥谷部 春汀 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング