や。(三十一年三月)

     帰朝したる近衛公

      (上)
 帰朝したる近衛公は、政治社会の未定数として一般に認めらるゝ人なり※[#白ゴマ、1−3−29]従来名士の海外より帰朝するや大抵多少の新観察を齎らし来りて、国民の聴官に或る音響を感ぜしめざるなし※[#白ゴマ、1−3−29]况むや資望一代に高き近衛公に於てをや※[#白ゴマ、1−3−29]さりながら我れも人も公の帰朝に待ち設けたる問題は、公が如何なる新観察を齎し来りて国民に寄与するや否やに非ずして、如何なる新運動を今後の政治社会に試む可きや否やに在りとす。
 余の記憶によれば、公の世界漫遊は、貴族教育の取調を第一の目的と為し、政治上の観察は寧ろ第二の目的なりしものゝ如し※[#白ゴマ、1−3−29]蓋し公は現に学習院長として貴族教育の重任を負ひ、而も近来専ら心血を此の方面に注ぐと共に、政治社会に於ける態度の稍々保守に傾きたるは事実に近かし※[#白ゴマ、1−3−29]公は最近数年間に起れる政変に於て、幾たびか自己の運命を試験す可き機会に遭遇したれども、公は常に淡然として之れを閑却したるに反して、独り学習院の事業に至ては、燃ゆるが如き改革的精神を以て、自ら画策施設したるもの頗る多し※[#白ゴマ、1−3−29]斯くの如きは抑も何の感ずる所あるに由る乎※[#白ゴマ、1−3−29]案ずるに、公は日本の貴族に対して、平生匡済の念禁ずる能はざるを認識するの人なり※[#白ゴマ、1−3−29]是れ他なし、深く貴族院の状態に鑑みる所ありしが為のみ※[#白ゴマ、1−3−29]夫れ貴族院は、一国の富貴名爵を代表したるものなるが故に、少なくとも其品位を保持するに於て衆議院よりも優るものなかる可からず※[#白ゴマ、1−3−29]而も日本貴族院は不幸にして甚だ悲む可き現象を呈したりき※[#白ゴマ、1−3−29]議会を開設して先づ腐敗の徴候を発したるものは、衆議院に非ずして貴族院なりき※[#白ゴマ、1−3−29]衆議院が政費節減民力休養を唱ふれば、貴族院は則ち之れに反対し、衆議院が行政改革情※[#「敝/犬」、86−下−14]打破を唱ふれば、貴族院は則ち之れに反対し、衆議院が新聞発行禁停の廃止を唱ふれば、貴族院は則ち之れに反対し、而して政府の提案、内閣の政略といへば、其是非得失を問はずして一も二もなく之れに盲従したりき※[#白ゴマ、1
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