、大隈や、伊藤や、皆露骨裸体の人物にして其長所と短所と共に既に明白なり※[#白ゴマ、1−3−29]彼は独り然らず、彼は政治家として記憶す可き一の成功もなく失敗もなし※[#白ゴマ、1−3−29]而も彼は巧みに隠れて巧みに現はるゝの術を善くし、曾て其の行蔵を以て人の指目を惹くの愚を為さず、故に彼は一種の秘密なり。
 伊藤前内閣倒れて松方内閣将に成らんとするや、衆皆彼を以て首相に擬し、慫慂已まず※[#白ゴマ、1−3−29]而して彼は固辞して烟霞の間に去れり世間輙ち之を以て彼れの雄心既に消磨せるの兆と為す※[#白ゴマ、1−3−29]特に知らず是れ唯だ巧みに隠れたるに過ぎずして、以て彼れが決して再現せざるの永訣と為す可からざるを※[#白ゴマ、1−3−29]何を以て之れを言ふや、彼れは曾て前内閣に公然反対は為さゞりしも亦其の交迭の機終に近づけるを知りたりき※[#白ゴマ、1−3−29]故に彼れの露国に往けるに及て、世間彼が外遊の所由を察せざるに拘らず、政変は必らず彼れの帰朝後に起る可きを予想したりき※[#白ゴマ、1−3−29]果然彼の帰朝と共に一個の公問題は政変の前駆となり出でたりき※[#白ゴマ、1−3−29]曰く大隈を外務に入れ松方を大蔵に挙ぐるは戦後に経営を全うする刻下の急要なりと※[#白ゴマ、1−3−29]而して彼は此問題の発議者として数へらるゝのみならず、又之れを実行するに於て朝野の間に斡旋したりき※[#白ゴマ、1−3−29]斯くの如くにして前内閣倒れたりとせば、之に代るの内閣が彼に首相たるを求むるは自然の情勢なり※[#白ゴマ、1−3−29]而かも彼は周囲の慫慂に応ぜずして反つて新内閣の組織に干渉せず※[#白ゴマ、1−3−29]是れ其の志決して政界に永訣せるに非ず、彼は巧みに隠れたるのみ。
 試に彼が黒田内閣の時代に於ける出処を見よ※[#白ゴマ、1−3−29]彼は条約改正に反対するが為に一の機関新聞を起して頻りに大隈攻撃を事とせしめ、而して当時彼は外国を漫遊して恰も政変を待つものゝ如く、其帰朝せるの日は、大隈難に逢ふて内閣方に動くの際にして、彼は内閣交迭の主謀者たらざるも、亦敢て黒田内閣の不幸を助くるの意思はなかりき※[#白ゴマ、1−3−29]故に黒田首相職を辞するや、衆彼に擬するに首相を以てすること亦猶ほ伊藤前内閣崩壊後に於けるが如くなりき※[#白ゴマ、1−3−29]而
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