。彼等の中には始めて日本を観たるもの少なからざれば、往々日本を誤解して日本に不利益なる報告を本国に送るものなしとも限らず。是れ决して軽視すべきものに非ざるを以て、大隈伯は屡々彼等を早稲田に招きて日本の真相を説明するに勉めたり。曩に開国五十年紀念会を開くや、伯は亦奮つて周旋の労を執り、居留米人をして頗る満足せしめたりき。当日会場整理の任に当りし米人ドクトル某氏が、我米人は最も大隈伯を愛好せりといひしを見るも、伯が如何に外人間に信用あるかを想ふ可し。
英国史伝家エワルド曾て其の著『代表的政治家』に於てパルマルストンを評して曰く、彼れは最高の能力に依りて英国を支配せざりき。然れども彼れは忠実にして不撓不屈なる愛国者なりき。彼れは正直にして善良なる信条を有したりき。彼れの智識は精確にして多種なりき。彼れの国民に対する同情は真摯にして决して偽りならざりき。彼れの趣味及び性格は、全然当時の英国人民を代表したりき。彼れの生涯は必らずしも偉大なりといふ可からず、然れども我政治家中にては最も英国的なりきと。余は此の語を移して以て我大隈伯を評するの甚だ適当なるを思はずむばあらず。(三十七年六月)
進歩党の首領
進歩党の中には、総理大隈伯の退隠を希望するもの少からずと伝へらる。其の意蓋し進歩党不振の原因を以て伯の指導宜しきを得ざるに帰し、伯の退隠に依りて進歩党の門戸を開放し、広く人才を招徠し、新たに適当の首領を求め、以て党勢を拡張すると共に、又政権に接近せむと欲するに在るものゝ如し。近時新聞紙上の一問題となりたる進歩党の改革運動なるものは、此の希望を有する党員を中心として起りたるに外ならじ。彼等は政友会と提携して却つて其の売る所となれる幹部の無策に憤慨し、堂々たる一大政党を以てして其の言動の毫も議会に重きを置かれざるの現状に煩悶し、進では政権に接近するの機会に益々遠ざかり、退ては政界に孤立して漸く民心に厭かれむとするの非運に苦悩し、而して斯くの如き苦悩煩悶憤慨より生ずる自然の反動は、終に彼等を駆て馬鹿らしき謀叛を企てしむるに至れり。大隈伯の退隠を希望すといふ如きは、馬鹿らしき隠謀に非ずして何ぞや。
大隈伯の進歩党に総理たるは、則ち正当の人物に於ける正当の位地なり。伯の健康にして猶ほ党務に堪ゆる限りは、進歩党は伯を総理とするに依りて其の存在を保つを得可く、又其の存在をし
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