を畏るゝに非ずむば彼れを憎むもの[#「以て彼れを畏るゝに非ずむば彼れを憎むもの」に傍点]、滔々大率是れなり[#「滔々大率是れなり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]現に彼れが外務大臣候補者として内閣の問題となりし時の如き、閣員の多數も、亦彼れの不人望を畏れて之を排斥したりといふに非ずや、余は固より傳ふる如きの事實ありや否やを證言する能はずと雖も、單に之れを一時の風説とするも、斯る風説の多少世間に信ぜらるゝを見れば、亦以て彼れが如何に政界に不人望なるかを認識するに足る。
されど彼れを讚美する一部の聲は亦甚だ高大なり※[#白ゴマ、1−3−29]一田舍新聞は、彼れを以て東洋の大豪傑と爲し[#「彼れを以て東洋の大豪傑と爲し」に傍点]、未來の總理大臣と爲し[#「未來の總理大臣と爲し」に傍点]、我選擧區民は此の人物を代議士とするの榮譽を失ふ可からずと絶叫して[#「我選擧區民は此の人物を代議士とするの榮譽を失ふ可からずと絶叫して」に傍点]、彼れを[#「彼れを」に傍点]ビスマーク、グラツドストンにも匹敵す可き大政治家の如くに誇張したりき[#「にも匹敵す可き大政治家の如くに誇張したりき」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]其想像の過度なる、殆ど滑稽突梯に陷ると雖も、彼に對する想像の奇なるは其不人望の方面に於ても亦同一なり。見よ彼れが將に歸朝せむとするや、或は曰く彼れの歸朝は政界の一大恐慌なり[#「彼れの歸朝は政界の一大恐慌なり」に傍点]、其進退は天下の大問題なりと[#「其進退は天下の大問題なりと」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]或は曰く、彼れは内閣を強迫して歸朝せり[#「彼れは内閣を強迫して歸朝せり」に傍点]、内閣は彼れを覊束するの威力なきなりと[#「内閣は彼れを覊束するの威力なきなりと」に傍点]、其状恰も敵國來襲を報ずる警戒の如し。既にして彼れの歸朝するや、彼れの言動は極めて沈靜なり※[#白ゴマ、1−3−29]彼れ曰く余にして若し求むる所あれば、何時にても入閣するを得可し※[#白ゴマ、1−3−29]余は唯だ求むる所なきのみ※[#白ゴマ、1−3−29]余は一憲政黨員として此際に努力せむと欲するのみと※[#白ゴマ、1−3−29]此に於て乎彼れを崇拜するもの[#「此に於て乎彼れを崇拜するもの」に白丸傍点]、彼れを信用せざるもの[#「彼れを信用せざるもの」に白丸傍点]、共に彼れを暗黒の中に模索し[#「共に彼れを暗黒の中に模索し」に白丸傍点]、彼は終に政界の一未知數と爲れり[#「彼は終に政界の一未知數と爲れり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]請ふ吾人をして先づ彼れの個人的資質を觀察せしめよ。然らば彼れに對する設題は自ら解答せらるゝを得む。
彼は天性の黨人なり
彼れは天性の黨人なり[#「彼れは天性の黨人なり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]何となれば彼れは黨人に必要なる二個の特質を有すればなり[#「何となれば彼れは黨人に必要なる二個の特質を有すればなり」に白丸傍点]、其放膽不諱にして人を人とも思はず[#「其放膽不諱にして人を人とも思はず」に白丸傍点]、爭氣猛烈にして常に戰を挑むの風ある如き[#「爭氣猛烈にして常に戰を挑むの風ある如き」に白丸傍点]、即ち其一なり※[#白ゴマ、1−3−29]彼れは此特質あるが爲めに、或は平地に風波を起し、或は故らに敵を作るの弊なきに非ずと雖も、其黨人として顯著の位地を占るに至りたるもの、亦此特質あるに由らずむばあらじ。
彼れの政治的閲歴は[#「彼れの政治的閲歴は」に二重丸傍点]、半ば爭鬪の事實を以て作れり[#「半ば爭鬪の事實を以て作れり」に二重丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]彼れの爭鬪を開始するや[#「彼れの爭鬪を開始するや」に傍点]、其名義の撰擇に注意せずして[#「其名義の撰擇に注意せずして」に傍点]、唯だ利害若くは感情の衝突に出づるもの多く[#「唯だ利害若くは感情の衝突に出づるもの多く」に傍点]、而も其作戰計畫の單純にして露骨なる[#「而も其作戰計畫の單純にして露骨なる」に傍点]、動もすれば壯士の私鬪に類するの嫌なきに非ず[#「動もすれば壯士の私鬪に類するの嫌なきに非ず」に傍点]、是れ彼れの爲に甚だ惜む可しと爲す、試に其一二を言はむか。
曾て大隈伯等の始めて改進黨を組織するや、其主義政綱は大體に於て自由黨と其歸着を同うせり※[#白ゴマ、1−3−29]故に自由黨よりいへば、たとひ改進黨を政友と認めざるまでも、必らずしも之れを正面の政敵とするの必要なかりしに似たり※[#白ゴマ、1−3−29]然るに三菱問題起るに當て、改進黨が冷然之れを傍觀したるの故を以て、直に僞黨撲滅の題目の下に改進黨を攻撃したるは[#「直に僞黨撲滅の題目の下に改進黨を攻撃したるは」に白丸傍点]、彼れ及び古澤滋の二人實に其張本人たりき[#「彼れ及び古澤滋の二人實に其張本人たりき」に白丸傍点]、顧ふに是れ自由黨の黨勢を擴張するに於て多少の成功を博するに足るの一手段たりしは疑ふ可からずと雖も、自由、改進兩黨をして呉越相容れざるの關係と爲らしめたるは、蓋し亦茲に淵源する所ありき。
既にして井上條約案出づるや、兩黨偶然其歩武を同うして之に反對し、一日兩黨の聯合懇親會あり※[#白ゴマ、1−3−29]其交情大に融和せむとするに際し、何等の不作法ぞ[#「何等の不作法ぞ」に白丸傍点]、彼れは卒然沼間守一を打撲して[#「彼れは卒然沼間守一を打撲して」に白丸傍点]、大に改進黨を激昂せしむるものあらむとは[#「大に改進黨を激昂せしむるものあらむとは」に白丸傍点]。
國會既に開くるに及で、自由、改進の兩黨相聯合して藩閥政府と戰ひ、稱して民黨と謂ふ※[#白ゴマ、1−3−29]彼れの代議士と爲るや、亦民黨と其向背を同うし、民黨の推挽に依て衆議院議長の椅子を得たりき※[#白ゴマ、1−3−29]然るに彼れは倏忽手を飜へして復た改進黨を攻撃し[#「然るに彼れは倏忽手を飜へして復た改進黨を攻撃し」に白丸傍点]、以て民黨を破壞するの擧を行ひたりしは何ぞや[#「以て民黨を破壞するの擧を行ひたりしは何ぞや」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]當時世間傳へて曰く、星亨の民黨破壞演説は、彼れが竊に陸奧宗光と約して、自由黨を政府黨たらしめむとするの隱謀より出でたりと※[#白ゴマ、1−3−29]されど自由黨は彼れの專有物に非ざりしを以て、彼れが言動に慊焉たるものは、皆相率ゐて自由黨と分離し、自由黨は此れが爲めに一大傷痍を受けたると共に、彼れも亦一時自由黨を去るの已むを得ざるに至りたりき。
此に於て乎彼は啻に一般政界の信用を失ひたるのみならず、自由黨も亦漸く彼れを敬して遠け、其全權公使に任ぜられて米國に派遣せらるゝや[#「其全權公使に任ぜられて米國に派遣せらるゝや」に白丸傍点]、識者之れを評して自由黨の内亂豫防策なりといへり[#「識者之れを評して自由黨の内亂豫防策なりといへり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]何となれば自由黨の内亂は、實に彼れが放膽不諱なる擧動に激成せらるる虞ありたればなり。
彼れが爭鬪の力に富めるは恰も英國のオーコンネルに似たり※[#白ゴマ、1−3−29]其口を開けば輙ち罵る所[#「其口を開けば輙ち罵る所」に白丸傍点]、其辯論に一種の活氣ありて人を煽動するに適する所[#「其辯論に一種の活氣ありて人を煽動するに適する所」に白丸傍点]、宛然として是れ日本のオーコンネルなり[#「宛然として是れ日本のオーコンネルなり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]但だオーコンネルの政敵と爭鬪するや[#「但だオーコンネルの政敵と爭鬪するや」に白丸傍点]、確然たる信條と[#「確然たる信條と」に白丸傍点]、爛※[#「火+曼」、第4水準2−80−1]たる熱誠とを以てするに反して[#「爛※[#「火+曼」、第4水準2−80−1]たる熱誠とを以てするに反して」に白丸傍点]、彼れは純然たる無宗教的冷頭を有するを異なりとするのみ[#「彼れは純然たる無宗教的冷頭を有するを異なりとするのみ」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]是れ彼れが自由黨に於ける信用の、オーコンネルが愛蘭黨に於ける當年の信用に及ばざる所以なり。
剛愎不遜は[#「剛愎不遜は」に白丸傍点]、彼れが有する特質の第二なり[#「彼れが有する特質の第二なり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]彼れの剛愎は衆議院議長として第五議會に彈劾せられたるの時を以て絶頂とす※[#白ゴマ、1−3−29]第五議會は、彼が取引所問題に關係したるを沒公徳の行爲と認めて、之を彈劾し、以て彼れに處決を促がすの決議を爲せり※[#白ゴマ、1−3−29]此決議に對しては、自由黨員も亦贊成を表したるもの多かりき※[#白ゴマ、1−3−29]然るに彼れは此決議を眇視して不當の決議を議長に於て何か有らむと放言して省みざりき[#「然るに彼れは此決議を眇視して不當の決議を議長に於て何か有らむと放言して省みざりき」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]故に議會は更に一日の休會を決議して、彼れの處決を強迫したり※[#白ゴマ、1−3−29]されど總べて無効なりき[#「されど總べて無効なりき」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]彼れは開會と共に平然として議長席に就き[#「彼れは開會と共に平然として議長席に就き」に傍点]、以て議事の進行を命令したればなり[#「以て議事の進行を命令したればなり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]議會は終に彼を懲罰に附して、代議士籍より除名したりと雖も、此懲罰すら彼に於ては何の痛痒をも感ぜざりしに似たり[#「此懲罰すら彼に於ては何の痛痒をも感ぜざりしに似たり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]彼は尚ほ選擧區に歸りて再選を要求したればなり[#「彼は尚ほ選擧區に歸りて再選を要求したればなり」に傍点]。
凡そ世間に剛愎の士多しと雖も[#「凡そ世間に剛愎の士多しと雖も」に白丸傍点]、其剛愎彼れが如きに至ては[#「其剛愎彼れが如きに至ては」に白丸傍点]、古今亦罕に觀るの異彩たらずむばあらじ[#「古今亦罕に觀るの異彩たらずむばあらじ」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]余は必ずしも彼れの剛愎を辯護せむとするものに非ず※[#白ゴマ、1−3−29]剛愎は如何なる場合に於ても、惡徳たるを免かれざればなり※[#白ゴマ、1−3−29]されど黨人より之れを觀れば[#「されど黨人より之れを觀れば」に白丸傍点]、剛愎も亦必要の武器なるやも知る可からず[#「剛愎も亦必要の武器なるやも知る可からず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]何となれば黨人最後の目的は[#「何となれば黨人最後の目的は」に白丸傍点]、唯だ政敵と戰つて之れに勝つの一事なるを見ればなり[#「唯だ政敵と戰つて之れに勝つの一事なるを見ればなり」に白丸傍点]。
彼は主我的人物なり
若し彼をして單に放膽不諱、剛愎不遜の木強漢ならしめば、彼は僅に鷄鳴狗盜の雄たるに過ぎず※[#白ゴマ、1−3−29]何ぞ甚だ多とするに足らむや※[#白ゴマ、1−3−29]されど彼れに最も及ぶ可からざるは、其戸外の木強漢たると共に[#「其戸外の木強漢たると共に」に二重丸傍点]、室内の讀書家たる是れなり[#「室内の讀書家たる是れなり」に二重丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]此れを聞く、彼は別に他の嗜好なく、唯だ讀書を愛して、博覽人に超え、故陸奧伯の如き亦學問に於て彼れに師事する所多かりしと※[#白ゴマ、1−3−29]余は彼が果して讀書の才あるや否やを知る能はずと雖も、其讀書の嗜好ありて多讀を貪るの人たるは、彼を知るものゝ皆許す所なり※[#白ゴマ、1−3−29]彼れが自由黨に在りて、巍然一頭地を出だす所以のものは、蓋し自由黨中復た一人の彼に優れる學者なきが爲ならずとせむや※[#白ゴマ、1−3−29]而も彼は多く理窟を語らずして[#「而も彼は多く理窟を語らずして」に白丸傍点]、反つて人の理窟を喋々するを笑ふ[#「反つて人の理窟を喋々するを笑ふ」に白丸傍点]※[#白ゴマ
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