代表するの意見を製造するものゝ如し」に二重丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]是れ自ら黨首の器にして[#「是れ自ら黨首の器にして」に二重丸傍点]、伊藤侯の企て及ばざる所と爲す[#「伊藤侯の企て及ばざる所と爲す」に二重丸傍点]。若し此陶鑄力を以て煽動家の破壞力と同視せば、其謬見や大なり※[#白ゴマ、1−3−29]煽動家は國民の偏見、私情、迷想に投じて之れを死地に陷る※[#白ゴマ、1−3−29]其目的唯だ破壞に在り。例へば獵官熱の熾なるを見れば、直に官吏登庸法全廢を主張する如き、或は議員歳費増加案を提出して腐敗せる人心を收攬する如き、是れ實に煽動家の手段なりと謂ふを得可きも、若し夫れ大隈伯に至ては、曾て此般の言動に出でたることなし※[#白ゴマ、1−3−29]地租増加に反對したるを以て伯を煽動家と爲さん乎※[#白ゴマ、1−3−29]市民を誘導して地租増加に贊成せしめたるも亦煽動家なり※[#白ゴマ、1−3−29]否、政治上の論爭は總て煽動的なりと謂はざる可からず※[#白ゴマ、1−3−29]亦奇怪ならずや※[#白ゴマ、1−3−29]唯だ大隈伯の長所にして短所なるは[#「唯だ大隈伯の長所にして短所なるは」に傍点]、其意見を公言するの大膽に過ぐること是れなり[#「其意見を公言するの大膽に過ぐること是れなり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]伯は其語らむとする所を語るに於て頗る無遠慮なり[#「伯は其語らむとする所を語るに於て頗る無遠慮なり」に傍点]、而も其語る所は大抵未來の問題に關するものたるを以て[#「而も其語る所は大抵未來の問題に關するものたるを以て」に傍点]、其發表したる意見は[#「其發表したる意見は」に傍点]、往々言質と爲りて[#「往々言質と爲りて」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]反對黨に攻撃の材料を供給せり[#「反對黨に攻撃の材料を供給せり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]意見を公言するは政治家の美徳なれども、時としては沈默を守るの反つて政治家の利益たるを知らざる可からず※[#白ゴマ、1−3−29]伯は他の政治家に比して割合に變説少きに拘らず、伯の政敵は、主として伯の變説最も著しきを言ふ※[#白ゴマ、1−3−29]是れ他の政治家は意見を發表すること少なきが故に[#「是れ他の政治家は意見を發表すること少なきが故に」に白丸傍点]、其變説世に知らるゝこと少なく[#「其變説世に知らるゝこと少なく」に白丸傍点]、伯は意見を發表すること多きが故に[#「伯は意見を發表すること多きが故に」に白丸傍点]、其言質を執らへらるゝこと隨て多きのみ[#「其言質を執らへらるゝこと隨て多きのみ」に白丸傍点]。
 されど政治家は道徳家に非ず[#「されど政治家は道徳家に非ず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]苟も國民の利害[#「苟も國民の利害」に白丸傍点]、國家の公問題と兩立せざる意見は[#「國家の公問題と兩立せざる意見は」に白丸傍点]、之れを守るも政治家の名譽に非ず[#「之れを守るも政治家の名譽に非ず」に白丸傍点]、之れを捨つるも政治家の恥辱に非ず[#「之れを捨つるも政治家の恥辱に非ず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]變ず可くして變じ[#「變ず可くして變じ」に白丸傍点]、捨つ可くして捨つ[#「捨つ可くして捨つ」に白丸傍点]、唯自己の智見と良心とに是れ任す可きのみ[#「唯自己の智見と良心とに是れ任す可きのみ」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]特に國民を指導する黨首に於て最も其然るを見る[#「特に國民を指導する黨首に於て最も其然るを見る」に白丸傍点]。
 伊藤侯は大隈伯の如く未來の問題を語ること少なく[#「伊藤侯は大隈伯の如く未來の問題を語ること少なく」に傍点]、其語るや大抵過去帳の展讀のみ[#「其語るや大抵過去帳の展讀のみ」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]故に其言質を作ること稀れなる代りに[#「故に其言質を作ること稀れなる代りに」に傍点]、其發表せる意見は[#「其發表せる意見は」に傍点]、國民の記憶を喚び起すの力あれども[#「國民の記憶を喚び起すの力あれども」に傍点]、國民を指導するの生命あるもの甚だ希れなり[#「國民を指導するの生命あるもの甚だ希れなり」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]是れ亦黨首として大隈伯に及ばざり所以なり[#「是れ亦黨首として大隈伯に及ばざり所以なり」に傍点]。
 之を要するに、伊藤侯は政治家としては當今第一流の人物なれども、黨首としては大隈伯の對手に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]然るに憲政黨は侯を誘ふて黨首の位地に立たしめむとす※[#白ゴマ、1−3−29]是れ果して憲政黨の利益なる乎※[#白ゴマ、1−3−29]侯にして若し憲政黨に入らば[#「侯にして若し憲政黨に入らば」に白丸傍点]、憲政黨は其組織を一變
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