らるゝを以て滿足せり[#「少數の共同者に信頼せらるゝを以て滿足せり」に白三角傍点]。彼は細心にして愼獨の工夫あり[#「彼は細心にして愼獨の工夫あり」に白三角傍点]、謹嚴にして妄りに放言高論せざるが故に[#「謹嚴にして妄りに放言高論せざるが故に」に白三角傍点]、彼れの共同者は[#「彼れの共同者は」に白三角傍点]、彼れと秘密を語り[#「彼れと秘密を語り」に白三角傍点]、大事を謀りて危まざるなり[#「大事を謀りて危まざるなり」に白三角傍点]、彼は批評せずして計畫し[#「彼は批評せずして計畫し」に白三角傍点]、實行し[#「實行し」に白三角傍点]、否らずむば沈默するが故に[#「否らずむば沈默するが故に」に白三角傍点]、國民の眼には頗る陰氣にして腹黒き政治家に見ゆるも[#「國民の眼には頗る陰氣にして腹黒き政治家に見ゆるも」に白三角傍点]、彼れの親近者及び共同者に對する行動は[#「彼れの親近者及び共同者に對する行動は」に白三角傍点]、眞摯なる考慮[#「眞摯なる考慮」に白三角傍点]、動搖せざる決斷[#「動搖せざる決斷」に白三角傍点]、負托に背かざる信義[#「負托に背かざる信義」に白三角傍点]、責任に對する大なる信念を以て表現せらる[#「責任に對する大なる信念を以て表現せらる」に白三角傍点]。山縣公爵は稍々是れに類する政治家なり[#「山縣公爵は稍々是れに類する政治家なり」に白三角傍点]。其の公衆に歡迎せられずして、而も猶ほ能く政治界の一大勢力たるは、彼れの人格が少數共同者に信頼せらるゝ所あるが爲なり。顧ふに彼れの共同者若くは親近者の中にも、感情趣味に於て彼れと相容れざるもの之れあらむ。然れども終に彼れに對して惡聲を放つものなきは、彼を以て與に樂むべからざるも[#「彼を以て與に樂むべからざるも」に白丸傍点]、相信頼するに足るの人なりと爲すに由れり[#「相信頼するに足るの人なりと爲すに由れり」に白丸傍点]。世間或は彼を徳川家康に比す。蓋し陰忍老獪にして權謀に富めること二人相同じと爲すなり。安んぞ知らむ[#「安んぞ知らむ」に白丸傍点]、二人の最も相似たる所は[#「二人の最も相似たる所は」に白丸傍点]、其の共同者をして信頼せしむるに足るの確乎不拔なる資質に存することを[#「其の共同者をして信頼せしむるに足るの確乎不拔なる資質に存することを」に白丸傍点]。豈唯だ陰忍老獪にして人の信頼を得ること彼れが如きことあらむや[#「豈唯だ陰忍老獪にして人の信頼を得ること彼れが如きことあらむや」に白丸傍点]。
彼れの人格思想は、伊藤公爵大隈伯爵等と對照すれば、より多く東洋的なりと雖も、若し強ひて歐洲に其の比倫を求めば、英國のウエリントン其の人を擧げざるべからず。出でては元帥たり入つては宰相たる所、我が山縣公爵とウエリントンと東西の好一對なるべく、其の政治思想の保守的に傾けること亦二人甚だ相遠からず。唯だウエリントンは殆ど政治家たるの一能力だも備へざりき。彼は經綸若くは政術に就いては僅少の智識を有したるのみ。彼れが唯一の注意は女皇内閣の權力を完全に維持せむとするに在りき。彼は過失多き政治家なりき。無策の政治家なりき。而も其の能く首相として内閣を組織し得たるは、彼れが赫々たる戰功に伴へる威望の力に由りたるのみ。我が山縣公爵が、其の本領の亦軍事に在るに拘らず、其の政治の方面に於ても偉大の勢力を有すると同日にして語るべからず。然れども二人に共通する特色は[#「然れども二人に共通する特色は」に白丸傍点]、社交的色彩を放てる生涯を有せざる是れなり[#「社交的色彩を放てる生涯を有せざる是れなり」に白丸傍点]。ウエリントンは毫も公衆の感情に頓着せざると共に、又公衆に好愛せらるべき、傾向を其の天分に發見せざりき、彼れの態度は冷靜なりき、乾燥なりき、生硬なりき。彼れの言行には、一點の衒耀なく、夸張なく、文采の燦爛たるものなく、活氣の飛動せるものなく、常に克己、自制、規律を以て鍛錬せられたる軍人氣質の標本たりき。是れ必らずしも温暖なる情緒を缺けるが爲に非ず。彼れの友誼心の深厚にして且つ恒久的なりしは、彼れの親近者の皆認識する所にして、是を以て彼は好愛せられざりしも、信頼せられ、歸依せられ、服從せられたりき。而も彼れをして人望の偶像たらしむるには、彼れの人格は餘りに嚴肅にして陰氣なりき。之れが我が山縣公爵に見るも、亦大同小異の模型に逢ふの感なからずや。
若し政治家を俳優と同視し、其の世に處するや、恰も俳優の舞臺に立つが如く、其の言行絶えず公衆の耳目に印象を與ふるを以て能事とすること、猶ほ俳優が一に大向ふの喝采を博するの技術を盡すに似たるを取るべしとせば、山縣公爵の如きは最も割の惡しき政治家なり。若し之れに反して、公衆には好愛せられざるも[#「公衆には好愛せられざるも」に白三角傍点]、共同
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