一切の政策唯だ姑息と※[#「糸+彌」、68−下−10]縫とを勉めて毫も國民を滿足せしめざること、我輩の篇を累ねて叙述したる所の如く、而して閣下の内閣が最大成功として誇る所は[#「而して閣下の内閣が最大成功として誇る所は」に白丸傍点]、實に人心を腐敗せしめ公徳を破壞せしめたる議院政略是れのみ[#「實に人心を腐敗せしめ公徳を破壞せしめたる議院政略是れのみ」に白丸傍点]、蓋し閣下の内閣は少數微力なる帝國黨及び時代の精神を領解せざる頑愚の屬僚を味方と爲すの外には、眞に主義政見を同うしたる黨與を議會に有せず、夫の自由黨との提携の如きは、原と相互の詐術に依りて成りたるものなるを以て、其の相献酬するや又唯だ詐術を是れ事として曾て利害存亡を倶にするの誠實あることなし、是れを以て閣下は單に議院政略に苦心して内治外交に對する經綸を考慮するに遑あらず、其の一たび重大なる時局に際會するに及べば、常に姑息の手段に依りて内閣一日の安を謀らむとせり、是れ果して鞏固なる内閣なりと謂ふを得可き乎。

      ※[#始め二重括弧、1−2−54]二十九※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 山縣相公閣下、若し夫れ閣下にして自由黨の強迫に屈して内閣の椅子を自由黨に割讓せむか、是れに依りて一時或は自由黨の反抗を禦ぎ得可しと雖も、是れと同時に内閣の基礎は反つて益々動搖の度を高むるを如何せむや、蓋し閣下は單に自由黨と提携してすら、尚ほ且つ動もすれば屬僚の不平、及び自由帝國兩黨間の嫉妬軋轢の爲に屡々惱殺せられたり、一旦自由黨員を内閣に入れて之れに政權を分與せば[#「一旦自由黨員を内閣に入れて之れに政權を分與せば」に傍点]、自由黨は勢に乘じて更に其の權力範圍を擴張せむとし[#「自由黨は勢に乘じて更に其の權力範圍を擴張せむとし」に傍点]、屬僚及び帝國黨は自己の位地を嬰守せむとして種々の隱謀を企てむ[#「屬僚及び帝國黨は自己の位地を嬰守せむとして種々の隱謀を企てむ」に傍点]、其の結果として内治外交の機關益々停滯して内閣の威信愈々降らむ、是れ豈閣下の前途をして一層暗黒ならしむる所以に非ずや、且つ閣下は曾て他の藩閥元老中に在て最も貴族院の望みを屬したる人なり、然るに自由黨と提携してより、閣下漸く貴族院の歡心を失ひ、現に宗教法案の如きは、法案其物既に不完全なりしは無論なりしも、其の貴族院に於て大多數を以て否決せられたるは亦貴族院が閣下の内閣を信任せざる明證に非ずや、今若し自由黨員を閣員として聯立内閣を造らば、貴族院の閣下に對する反感は恐らくは測る可からざるものあらむ、閣下何を以て内閣の安全を保たむとする乎。
 相公閣下、閣下今日の計は唯だ斷然闕下に拜趨して内閣の總辭職を奏請するに在り、閣下の内閣にして此の擧に出でむか、後に現はる可き内閣は、其の何人に依て組織せらるゝものたるに拘らず、必らず政黨を基礎とする内閣なる可きは必然の趨勢なり、但し其の内閣の完全なる政黨内閣たるを得るや否やは固より未だ知る可からずと雖も、其の内閣の閣下の内閣よりも進歩したるものなる可きは決して疑ふ可からず、たとひ然らずとするも一變局を經る毎に漸次政黨内閣に近づくの動機を促進するものたるに於て我輩は一日も早く閣下をして過渡の時代を善くせしめ、以て閣下の名譽を後昆に垂れむことを望むこと切なり、世に一種の俗論あり曰く、今日は孰れの政黨も絶對的多數を有するものなし、現内閣にしてたとひ總辭職を爲すことあるも、之れに代りて内閣を組織し得るの準備ある政黨は一も之れあることなし、内閣は遽かに更迭せしむ可からず、又更迭せしむるの必要なしと、我輩請ふ其の俗論たる所以を解説せむ。

      ※[#始め二重括弧、1−2−54]三十※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 山縣相公閣下、凡そ立憲國の内閣に貴ぶ所は、唯だ其の存立の長期なるに在ずして、其の施設の多く且大なるに在り、長期の内閣と雖も、其の施設毫も觀る可きものなくば、則ち短期の内閣と又何の撰む所ぞ、故に我輩は寧ろ能力ある内閣を望みて、單に長期なる内閣を望まず、何となれば能力ある内閣は、たとひ短期にして斃るゝことあるも、尚ほ能く光輝ある成績を留むるを得るに反して、能力なき内閣は、たとひ長期の存立を保つことあるも、決して國家に多大の貢献を爲すこと能はざればなり、况むや長期の内閣は反つて政治上の罪惡を作ること古今其の例に乏しからざるに於てをや。
 相公閣下、閣下の内閣は、議會開設以來最も長期の内閣にして、又議會開設以來最も無能力の内閣と稱せらる、顧ふに閣員悉く無能無力なるに非ず、中には多智多才の人物ありと雖も内閣の基礎頗る薄弱にして内は統一の形全く破れて行政機關の作用大に頽廢し、外は野心ある政治家若くは黨與の爲に牽制せられて、曾て自由手腕を揮ふ能はず、而して閣下は強て内閣を維持せ
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