發表して、既成政黨の弊害を矯正せんとするや、侯の機關紙たる『日々新聞』は、侯の目的、模範政黨を作るに在りと暗示し、憲政黨の機關紙たる『人民新聞』は、侯の位地を論じて、憲政黨に入るの侯の志に合ふ可きを諷告したり※[#白ゴマ、1−3−29]侯果して憲政黨に入りて其首領たらむと欲する乎。或は既成政黨以外、新たに同志を糾合して模範政黨なるものを作らむとする乎※[#白ゴマ、1−3−29]是れ恐くは政治的數學の例題ならむ※[#白ゴマ、1−3−29]近かき未來の政局を打算するが爲には、先づ此例題を解决せざる可からず。
然れども憲政黨及び其他の伊藤崇拜者が[#「然れども憲政黨及び其他の伊藤崇拜者が」に白丸傍点]、果して能く伊藤侯の人物を領解したるや否や[#「果して能く伊藤侯の人物を領解したるや否や」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]試に問はむ[#「試に問はむ」に白丸傍点]、侯は黨首の器を備へたる人物なる乎[#「侯は黨首の器を備へたる人物なる乎」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]具體的にいへば[#「具體的にいへば」に白丸傍点]、侯はグラツドストンたるを得る乎[#「侯はグラツドストンたるを得る乎」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]サリスバリーたるを得る乎と[#「サリスバリーたるを得る乎と」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]凡そ黨首に最も必要なる資格は、國民を指導して國民を專制せざるに在り[#「國民を指導して國民を專制せざるに在り」に二重丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]但國民を指導すといふは、國民を煽動するの謂に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]衆愚の感情を迎合し、一時の俗論を鼓吹し、己れの信ぜざる所を語り、我が欲せざる所を行ひ、詐謀僞術を挾みて強て多數の好尚に阿ねるは、是れ煽動家の事のみ※[#白ゴマ、1−3−29]余が所謂る黨首に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]マツヂニー曾て多數政治に定義を與へて曰く、多數政治とは[#「多數政治とは」に白丸傍点]、最も聰慧にして最も善良なる首領の指導に依れる政治なりと[#「最も聰慧にして最も善良なる首領の指導に依れる政治なりと」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]故に黨首は其智見判斷に於て固より一代に超絶するものたる可く、則ち國民の未だ知らざる所を知り、國民の未だ見ざる所を見るの賢明なる人物ならざる可からずと雖も、此れと同時に[#「此れと同時に」に白丸傍点]、其智見判斷を以て[#「其智見判斷を以て」に白丸傍点]、國民の意思を壓服せむとするは[#「國民の意思を壓服せむとするは」に白丸傍点]、是れ專制家の事なり[#「是れ專制家の事なり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]余が所謂る黨首には非ず[#「余が所謂る黨首には非ず」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]煽動家はモツブの頭領たる可し[#「煽動家はモツブの頭領たる可し」に傍点]、政黨の首領たるを得ず[#「政黨の首領たるを得ず」に傍点]、專制家は宮廷政治の宰相たる可し[#「專制家は宮廷政治の宰相たる可し」に傍点]、多數政治の宰相たるを得ず[#「多數政治の宰相たるを得ず」に傍点]。
余は伊藤侯が當今第一流の政治家として、其智見判斷固より一頭地を地平線上より抽むずる者あるを認識す。されど侯は政黨の首領として、國民を指導するの適才なりや否やと問はゞ、余は容易に之れを首肯する能はず※[#白ゴマ、1−3−29]有體にいへば[#「有體にいへば」に白丸傍点]、侯は宮廷政治の宰相なり[#「侯は宮廷政治の宰相なり」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]侯は自負心に富みて[#「侯は自負心に富みて」に白丸傍点]、昂然自ら標置し[#「昂然自ら標置し」に白丸傍点]、平生私智を恃むこと餘りに多くして[#「平生私智を恃むこと餘りに多くして」に白丸傍点]、輿論を視ること極めて輕く[#「輿論を視ること極めて輕く」に白丸傍点]、個人的利害[#「個人的利害」に白丸傍点]、個人的感情に傾き易き國民を指導して[#「個人的感情に傾き易き國民を指導して」に白丸傍点]、與に國家の公問題を處决する如きは[#「與に國家の公問題を處决する如きは」に白丸傍点]、恐らくは潔癖ある侯の能く忍ぶ所にあらず[#「恐らくは潔癖ある侯の能く忍ぶ所にあらず」に白丸傍点]。余は侯を目して東洋のビスマークなりと信ずるほどに侯を崇拜せざるのみならず、侯を以てメツテルニヒの惡血を混じたる奸雄なりとも思はず。蓋し侯は天性神經過敏なれども[#「蓋し侯は天性神經過敏なれども」に白丸傍点]、政治上に於ては極めて小心にして英斷に乏しく[#「政治上に於ては極めて小心にして英斷に乏しく」に白丸傍点]、謹愼餘りありて強固なる意力を缺きたる人なればなり[#「謹愼餘りありて強固なる意力を缺きたる人なればなり」に白丸傍点]
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