の内閣と兩立せずして[#「必らず一日も閣下の内閣と兩立せずして」に傍点]、早く第十三議會に於て破裂を見たりしや疑ふ可からず[#「早く第十三議會に於て破裂を見たりしや疑ふ可からず」に傍点]、然るに内閣の相手とせる議會は、醜怪なる多數黨派の毒泉に涜がされて其の良心を喪ひ、内閣の失政を匡救するを爲さずして、寧ろ之れを助長せしむるの行動に出でたり、是れ閣下の内閣が、幸ひに原形を今日に保つを得たる所以なり。
 故に閣下の内閣にして依然今後に存立することあらむか[#「故に閣下の内閣にして依然今後に存立することあらむか」に白丸傍点]、此一方に於て議會の愈々腐敗する運命を豫想す可く[#「此一方に於て議會の愈々腐敗する運命を豫想す可く」に白丸傍点]、一方に於ては又閣下の失政益々増加するをも豫想せざる可からず[#「一方に於ては又閣下の失政益々増加するをも豫想せざる可からず」に白丸傍点]、斯くの如きは豈國民の能く忍ぶ所ならむや、我輩は必らずしも好で閣下の過失を追究せむとするものには非ず、さりながら閣下にして之れを自覺せざる以上は、我輩は有りのまゝに事實を擧示して閣下の反省を求めざる可からず、顧ふに閣下が一介の武辨を以てして今日の難局に當る初より經綸の一も觀る可きものなきは又當然なりとせむ、而も閣下が自ら天下に宣言したる言責を實行せずして、隨つて國民の閣下に豫期したる冀望の悉く水泡に歸したるは、我輩の甚だ遺憾とする所なり。
 相公閣下、閣下内閣組織以來屡※[#二の字点、1−2−22]官紀振肅秩序保持の美辭を使用したり、而も閣下の内閣は、官紀振肅の代りに、官紀大に紊亂したる事實を示し、秩序保持の代りに、秩序頗る壞頽したる證迹を現はしたるは何ぞや、但し此般の事實は既に天下公衆の知悉する所たるに於て、今敢てこゝに之を詳述するの必要を見ずと雖も、我輩は閣下が有名なる謹嚴方正なる風采家たるを尊敬し、而して閣下の内閣が、斯る謹嚴方正なる風采家と背馳するの行動あるを怪事とし、乃ち次に其の大要を擧げて閣下の明鑑を仰がむとす。

      ※[#始め二重括弧、1−2−54]五※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 山縣相公閣下、我輩は曾て多くの冀望を閣下の内閣に屬せざりしと雖も、獨り官紀振肅の一事は閣下專賣の政綱たりしを見るに於て、中心實に此點に於ける閣下の特色が十二分に發揮せられむことを期したりき、而も其事實に現はれたるものを觀れば[#「而も其事實に現はれたるものを觀れば」に傍点]、閣下專賣の貴重なる政綱は[#「閣下專賣の貴重なる政綱は」に傍点]、殆ど悉く破壞せられて完膚なく[#「殆ど悉く破壞せられて完膚なく」に傍点]、國民をして閣下の特色の果して何れに在るやを怪ましめたるは我輩甚だ意外の感に打たれざるを得ず[#「國民をして閣下の特色の果して何れに在るやを怪ましめたるは我輩甚だ意外の感に打たれざるを得ず」に傍点]手短かに我輩の記憶に殘れるものをいへば昨年の地方議員選擧に際し地方官が行政權を濫用して其選擧に干渉したる如き其一なり、一昨年増租案の衆議院に提出せられたるに際し、小山田某の議員買收に盡力したる勞に酬ひむが爲に、竊に横濱工事受負を某に許可するの私約が、西郷内相と自由黨領袖星亨氏との間に成立したりし如き其二なり、官林拂下問題の醜聞頻りに出でて、曾禰農相の名屡々此間に流傳し、現に農相を黒幕として組織したる帝國黨の領袖が、上毛江州石川青森福井等の各地に於て、官林拂下を條件として黨員を募集したるは世に隱くれなき事實にして、而も曾禰農相の直接間接に之と關係ありしを認識せられたる如き其三なり、凡そ此類の事實は、明々白々掩はむと欲して掩ふ能はざる所にして特に横濱埋立事件の眞相に至ては、在野黨代議士の爲めに公然第十四議會に暴露せられ、以て其餘沫の西郷内相の面上に瀝げるも、内相は曾て一言も之を辯解する能はざりしのみならず列席の議員孰れも之を默聽して相爭はざりしを見れば、閣下の失策は自ら官紀紊亂の事實を認めつゝありと斷言せざる可からず、而して是れ實に方正謹嚴の風采家を以て有名なる閣下の統督せる内閣の現状なり[#「而して是れ實に方正謹嚴の風采家を以て有名なる閣下の統督せる内閣の現状なり」に白丸傍点]、相公閣下、我輩をして有體に閣下の失策を語らしめば、閣下は不幸にして議院政略を何よりも大切とするの謬見に陷りたり[#「閣下は不幸にして議院政略を何よりも大切とするの謬見に陷りたり」に傍点]、顧ふに立憲國の内閣に在ては議院政略も亦一の重要なる政略たるを疑はずと雖も[#「顧ふに立憲國の内閣に在ては議院政略も亦一の重要なる政略たるを疑はずと雖も」に傍点]、單に内閣の存立を謀るを目的として之れを濫用するに於ては[#「單に内閣の存立を謀るを目的として之れを濫用するに於ては」に傍点]、其の弊の極る
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