の爲めであつて、伯の政治生涯は此の時代には既に終りを告げて居つたのである。
※[#丸中黒、1−3−26]伊藤侯が政友會を組織して自由黨を改宗させたのは、板垣伯に取つても渡りに船で(伯はさう思つて居らぬかも知れぬが)若し此の過渡の一時期がなかつたならば、伯は自由黨の始末に窮したであらう。
※[#丸中黒、1−3−26]兎に角伯は自由黨の爲に餘程苦勞されたものである。其の後身たる政友會は決して伯の前功を忘れてはならぬ。(三十九年四月)
公爵 山縣有朋
山縣有朋
世間、山縣有朋を見る何ぞ其れ謬れるや。彼を崇拜するものは曰く、重厚端※[#「殼/心」、45−下−16]古名臣の風ありと※[#白ゴマ、1−3−29]彼を輕蔑するものは曰く、小膽褊狹毫も人材を籠葢するの才なしと※[#白ゴマ、1−3−29]或は彼を政界の死人なりと笑ひ、或は彼を文武の棟梁なりと稱し、毀譽褒貶交々加はるも渾べて皆誤解なり※[#白ゴマ、1−3−29]彼は伊藤博文の如く圓轉自在ならず※[#白ゴマ、1−3−29]大隈重信の如く雄傑特出ならず※[#白ゴマ、1−3−29]又井上馨の如く氣※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64]萬丈ならず※[#白ゴマ、1−3−29]即ち唯だ平凡他の奇あらざるものに似たりと雖も、余を以て之を觀れば、井上や、大隈や、伊藤や、皆露骨裸體の人物にして其長所と短所と共に既に明白なり※[#白ゴマ、1−3−29]彼は獨り然らず、彼は政治家として記憶す可き一の成功もなく失敗もなし※[#白ゴマ、1−3−29]而も彼は巧みに隱れて巧みに現はるゝの術を善くし[#「而も彼は巧みに隱れて巧みに現はるゝの術を善くし」に白丸傍点]、曾て其の行藏を以て人の指目を惹くの愚を爲さず[#「曾て其の行藏を以て人の指目を惹くの愚を爲さず」に白丸傍点]、故に彼は一種の秘密なり[#「故に彼は一種の秘密なり」に二重丸傍点]。
伊藤前内閣倒れて松方内閣將に成らんとするや、衆皆彼を以て首相に擬し、慫慂已まず※[#白ゴマ、1−3−29]而して彼は固辭して烟霞の間に去れり世間輙ち之を以て彼れの雄心既に消磨せるの兆と爲す※[#白ゴマ、1−3−29]特に知らず是れ唯だ巧みに隱れたるに過ぎずして[#「特に知らず是れ唯だ巧みに隱れたるに過ぎずして」に白丸傍点]、以て彼れが決して再現せざるの永訣と爲す可からざるを[#「以て彼れが決して再現せざるの永訣と爲す可からざるを」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]何を以て之れを言ふや、彼れは曾て前内閣に公然反對は爲さゞりしも亦其の交迭の機終に近づけるを知りたりき※[#白ゴマ、1−3−29]故に彼れの露國に往けるに及て、世間彼が外遊の所由を察せざるに拘らず、政變は必らず彼れの歸朝後に起る可きを豫想したりき※[#白ゴマ、1−3−29]果然彼の歸朝と共に一個の公問題は政變の前驅となり出でたりき※[#白ゴマ、1−3−29]曰く大隈を外務に入れ松方を大藏に擧ぐるは戰後に經營を全うする刻下の急要なりと※[#白ゴマ、1−3−29]而して彼は此問題の發議者として數へらるゝのみならず、又之れを實行するに於て朝野の間に斡旋したりき※[#白ゴマ、1−3−29]斯くの如くにして前内閣倒れたりとせば、之に代るの内閣が彼に首相たるを求むるは自然の情勢なり※[#白ゴマ、1−3−29]而かも彼は周圍の慫慂に應ぜずして反つて新内閣の組織に干渉せず※[#白ゴマ、1−3−29]是れ其の志決して政界に永訣せるに非ず[#「是れ其の志決して政界に永訣せるに非ず」に白丸傍点]、彼は巧みに隱れたるのみ[#「彼は巧みに隱れたるのみ」に白丸傍点]。
試に彼が黒田内閣の時代に於ける出處を見よ※[#白ゴマ、1−3−29]彼は條約改正に反對するが爲に一の機關新聞を起して頻りに大隈攻撃を事とせしめ、而して當時彼は外國を漫遊して恰も政變を待つものゝ如く、其歸朝せるの日は、大隈難に逢ふて内閣方に動くの際にして、彼は内閣交迭の主謀者たらざるも、亦敢て黒田内閣の不幸を助くるの意思はなかりき※[#白ゴマ、1−3−29]故に黒田首相職を辭するや、衆彼に擬するに首相を以てすること亦猶ほ伊藤前内閣崩壞後に於けるが如くなりき※[#白ゴマ、1−3−29]而も彼が固辭して受けざるや、故三條公乃ち已むを得ずして首相となれり※[#白ゴマ、1−3−29]是れ彼が巧みに隱れたる所以にして[#「是れ彼が巧みに隱れたる所以にして」に白丸傍点]、其の機熟し時來れるを見るや[#「其の機熟し時來れるを見るや」に白丸傍点]、彼れ果して巧みに現はれて[#「彼れ果して巧みに現はれて」に白丸傍点]、山縣内閣は忽如として成りたりき[#「山縣内閣は忽如として成りたりき」に白丸傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]歴史は反復す[#「歴史は反
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