のあるも、敢て成敗を賭して自家の所信を徹底せむとするの勇氣ありとも見えず。是れ終に伊藤侯の政黨組織を承認せざるを得ざる所以なり。侯は又舊自由黨の熱心なる主張を排し、故らに黨名を採らずして會名を用ゐたるは、識者より見れば、殆ど兒戯に類すと雖も、是れ一は黨と稱すれば自由黨の變名なるが如き嫌あると[#「是れ一は黨と稱すれば自由黨の變名なるが如き嫌あると」に傍点]、一は全く既成政黨の組織を踏襲するを欲せざる爲なる可し[#「一は全く既成政黨の組織を踏襲するを欲せざる爲なる可し」に傍点]、其の宣言及綱領を發表するに侯の單名を以てして、何人をも之れに加へざるは、是れ侯の最も意を用ゐたる所にして、其の理由は次の二點に歸着すべし。曰く立憲政友會は伊藤侯の創立したるものなれば[#「立憲政友會は伊藤侯の創立したるものなれば」に傍点]、其の存廢を決するは伊藤侯の自由意思にして[#「其の存廢を決するは伊藤侯の自由意思にして」に傍点]、何人も之れを掣肘するを得可からず[#「何人も之れを掣肘するを得可からず」に傍点]。曰く宣言及び綱領は侯の單意に成りたるものなれば[#「曰く宣言及び綱領は侯の單意に成りたるものなれば」に傍点]、之れを修正變更するは侯の獨裁たる可く[#「之れを修正變更するは侯の獨裁たる可く」に傍点]、隨つて立憲政友會に入るものは徹頭徹尾侯に盲從し[#「隨つて立憲政友會に入るものは徹頭徹尾侯に盲從し」に傍点]、何人も侯に容喙するを許さゞる是れなり[#「何人も侯に容喙するを許さゞる是れなり」に傍点]。此の推測の正當なるは、政友會發會式の日に發表したる會則を一讀せば更に明白なり。其の會則に據れば、總務委員幹事長以下の選任より、大會、議員總會等の召集まで、一切總裁の權能に屬すること、恰も文武百官の任命乃至議院の召集解散等、總て君主の大權に屬するが如し。而して其の總裁の就任に關して何等の規定なきを以て、立憲政友會の總裁は固より一般政黨の推選首領と其の性質を異にせり。要するに總裁は立憲政友會の主體にして、其の機關には非ず。換言せば伊藤侯の立憲政友會に總裁たるは[#「換言せば伊藤侯の立憲政友會に總裁たるは」に傍点]、猶ほ專制國に君臨せる元首の如く[#「猶ほ專制國に君臨せる元首の如く」に傍点]、其の權能は絶對にして無限なり[#「其の權能は絶對にして無限なり」に傍点]、一般の政黨首領は[#「一般の政
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