割合には其の實行躬踐の分量甚だ少なきの缺點あり[#「其の文采言語の多き割合には其の實行躬踐の分量甚だ少なきの缺點あり」に傍点]、閣下は固より伊藤侯の才能なく井上伯の膽氣なしと雖も[#「閣下は固より伊藤侯の才能なく井上伯の膽氣なしと雖も」に傍点]、而も曾て重きを藩閥政府に有したるは[#「而も曾て重きを藩閥政府に有したるは」に傍点]、實に官府の秩序と威權とを保維するを以て行政の要と爲したるに由れり[#「實に官府の秩序と威權とを保維するを以て行政の要と爲したるに由れり」に傍点]、其の或は極端なる法治主義に偏して時に精刻峻急に陷るの病ひあるのみならず規摸も亦甚だ狹小にして、官權擴張の外殆ど大なる主張なかりしに拘らず、我輩は尚ほ此點に於ける閣下の本領を認めて、所謂る藩閥武斷派の代表者と爲したりき、今や閣下の本領は全く消磨して[#「閣下の本領は全く消磨して」に白丸傍点]、精刻峻急の角度を取り除きたる代りに[#「精刻峻急の角度を取り除きたる代りに」に白丸傍点]、秩序もなく[#「秩序もなく」に白丸傍点]、節制もなく[#「節制もなく」に白丸傍点]、官紀を紊亂し[#「官紀を紊亂し」に白丸傍点]、行政機關を荒廢して[#「行政機關を荒廢して」に白丸傍点]、唯だ内閣一日の姑息を謀らむとす何ぞ其の老ゆるの太甚しきや[#「唯だ内閣一日の姑息を謀らむとす何ぞ其の老ゆるの太甚しきや」に白丸傍点]。
 思ふに閣下は漫に屬僚の小献策に氣觸れて大局を觀るの眼識を失ひ、單に議院政略に成功するを以て能事と爲したるもの、是れ實に閣下が政治の大道を踏み外づしたる所以なり、蓋し彼の屬僚輩の頭腦には、唯だ内閣を出來得るだけ永く維持せんと欲する目的の外には一物なく、而も此の目的は、國家經綸の抱負より來れるには非ずして、實は官職を生活問題より見たる劣情より出でたるに過ぎず、而して彼等が生存競爭の大敵として常に忌憚するものは黨人なるが故に、彼等は先づ此の黨人の獵官心を抑制するに於て如何なる手段方法をも顧みざるに至れり、是れ議院政略の由て生ずる所にして、而も其の之れを施して底止する所なきや、反つて内閣の威信と行政機關の壞敗とを招くに至れるを知らざるなり。

      ※[#始め二重括弧、1−2−54]十一※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 山縣相公閣下、閣下が屬僚の進言を納れて柄にもなき議院政略を亂用したる結果は、殆ど
前へ 次へ
全249ページ中142ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鳥谷部 春汀 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング