な思いを長い間積み重ねて、突然その思いの現われる場所にふりむいた顔つきがこれに似ていた。世間にいくらでもつきあたる顔つきでもあった。
とよ子の嫂は塑像のように、肩も、垂れた両腕も動かさずに、爪先だけでそっととよ子の方へ歩み寄って行った。
低い銹びた声がすぐ何事か云いはじめた。
「今朝病院から手紙が来てね、とよちゃんに附添さんが要ると云って来たんだが、いったいどうしたと云うの、え?」
私のベッドの方へ洩れてくる声は、手にとるように近かった。嫂の声には義妹の容態の悪化を案じるよりも、病院の申出に至らしめたとよ子の現在を詰問する口ぶりの方が、あらわであった。
とよ子は口ごもって、何も答えられずにいた。
「え? どうしたのさ。病院に入ってこうしてお医者や看護婦さんにお世話になっていて、何が不足? いったい附添さんが要るほど悪くなったと云うの」
「いいえ、私は知らないの。病院の方で定めてそう通知したものとみえるわ」
「ふん」嫂はしばらく声をとぎらせた。
とよ子の啜り泣く声がきこえはじめた。私は息をのんだが、この短かい沈黙の間に、どれほど多くの二人の感情が揉み合ったかは、察せずにはいられ
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