(1)ニテ挟持シテ成ル「パチンコ」ノ構造。
 こんなわけで、パチンコとて中々|厳《おごそ》かなものでゲス。

 芋焼器の発明
 昭和五年実用新案広告第八八三四号(類別、第九十六類九、飲食物製造機雑)――出願人、山形市×澄町吹張、伊×長兵衛氏。
 この芋焼器の「作用と効果」というのが、実に名文で、一読《いちどく》、やき芋屋へ走りたくなるという御婦人方には極めて蠱惑的《こわくてき》なものである。乃《すなわ》ち――
 作用ト効果
 本考案品ハ右ノ如キ構造ニシテ加熱板上ノ金網面ニ、生芋ヲ置キテ、先ズ半蒸焼《はんむしやき》トナシ、後コレヲ取出シテ、適宜ニ切断シテ、塩ヲ散布シ、多孔板上《たこうばんじょう》ニ載置シテ完全ニ蒸焼ス。而《しか》シテ金網面ニハ更ニ生芋ヲ入替《いれか》ウルモノトス。斯《か》クシテ完全ニ蒸焼サレタル芋ハ、蓋ヲ取去リテ取出シ、蓋ニ具ウル保温室内ニ常ニ保温セシメ置クモノナリ。
 以上ノ如クナルヲ以テ、芋ヲ焦焼スルコトナク(僕はいささか焦げた方が好きです)、蒸焼シ得ルノミナラズ蒸焼ヲ二回ニ順次行ウヲ以テ塩ノ浸滲《しんさん》ハ良好ニ行ワレ(とてもタマランです)、更ニ蓋ニ保温室ヲ設クルコトニヨリ之ヲ焼冷《やきざま》シトナスコトナカラシメ、常ニ保温シ得ル等ノ効果ヲ有ス。
 ――皆様、お腹の具合はいかがですナ。

 牛馬両便器の発明
 昭和二年実用新案広告第四二九四号(類別、第七十五類五、家畜用便器)――出願人、四谷区永住町、中×清氏。
 牛馬の両便と都市の美観衛生問題は、これ誰しも頭痛の種である。そこで此の発明が生れたわけである。
 図で見るように、ションの方は漏斗《じょうご》がたの受け器があって、これは牝牛《めうし》の場合に、適当な個所に於て、下から受けている。
 ジャアと用を達せば、この漏斗がたの中に落ち、底から出ている管《くだ》を通って、タンクの中へ流れ込む。だから、美しい道路を汚すこともなく、地が掘れる心配もないというわけ。
 ダイの方は、手前に出ているハンドルを、キューッと矢の方に引張ると、クランクの巧みなる運動によって、蝦《えび》のように曲った管の先についているダイの受け器が、クルリと廻って、適当なる下方に伸びて、ダイを受ける。
 受けたものはコロコロと、太い管の中を転落して、タンクの中に入るから牛馬先生は、遥かに余韻《よいん》嫋々《じょうじょう》たる風韻《ふういん》を耳にするであろう。
 ハンドルが間に合わぬことを心配する人があるかも知れないが、こいつは心配いらぬ。何故なら牛馬は用達《ようたし》を催すときには先ず急に止るから、そのとき直ぐハンドルを引張れば、十分間に合う。
 ――という誠に結構な仕掛けである。かくして牛馬君は、終日おのれの産物を引いて廻ることになる。
 さてこの折角の発明も、牛馬車がトラックに追われてしまった今日では、僅かに原稿のネタになるしか、その効果がなくなった。



底本:「海野十三全集 別巻2 日記・書簡・雑纂」三一書房
   1993(平成5)年1月31日第1版第1刷発行
初出:「モダン日本」モダン日本社
   1934(昭和9)年1月号〜6月号
※初出時の署名は、「佐野昌一」です。
入力:田中哲郎
校正:土屋隆
2005年1月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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