けには行かないネ。無銭飲食をした揚句《あげく》、自殺と出掛けても娑婆から借金取りが無線で押し寄せるなぞ、洒落《しゃれ》にもならない。この世の悪事は、すべて自《みずか》らが償《つぐな》わねばならなくなるわけだネ」
「だから、この世で悪事をするものが絶えてしまう。ラジオのお蔭で、この世ながらの神の国、仏の国となる。有難いじゃないか。」
「――そりゃいいが、この世からあの世へ伸すことができるというからには、あの世の亡者連中もこの世へ、のさばってくることになりゃしないかい。」
「それは大有りさ。幽霊なんかゾロゾロ現れるだろうな。そりゃどうも仕方がないサ。君を思いつめ、君の奥さんを呪って死んだD子の亡霊なんぞ、早速ドロドロとやってくるぜ。」
「ウワーッ。僕は明日から、参禅《さんぜん》生活を始める決心をした!」



底本:「海野十三全集 別巻2 日記・書簡・雑纂」三一書房
   1993(平成5)年1月31日第1版第1刷発行
初出:「新青年」
   1929(昭和4)年1月号
※この作品は初出時に署名「佐野昌一」で発表されたことが、底本の解題に記載されています。
入力:田中哲郎
校正:土屋隆
2005年1月7日作成
青空文庫作成ファイル:
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