寺田先生と僕
海野十三(佐野昌一)
−−
【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)已むを得ず[#「已むを得ず」は底本では「己むを得ず」]
−−
題名ほどの深い關係もないのであるが、科學ペンからの求めで、已むを得ず[#「已むを得ず」は底本では「己むを得ず」]ペンを執る。
僕が寺田先生を始めて知つたのは、多くの人がさうであるやうに、第一には「吾輩ハ猫デアル」の水島寒月に於て、また「三四郎」の野々宮理學士に於てである。これは書くまでもない至つて平凡なことである。只、その間、首くくりの力學には、始め滑稽を感じ、後學校で本物の力學を勉強するやうになつて畏敬と化した。首くくりはたしかに力學でもあつたからである。今も先生を心から敬慕して已まぬ[#「已まぬ」は底本では「己まぬ」]わけは、先生が首くくりにも力學を考へられた非凡なその學者的態度である。非凡とだけでは物足りない。悟りきつた、神のやうな學者的態度とでもいはふか。
寺田先生から、手紙を一度頂いた事があつた。それは大正十二年の關東大震災の後に、東京朝日新聞紙上で、「私の探してゐる
次へ
全7ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐野 昌一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング